イタリア北部ベネチアで10日まで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議の共同声明では、温室効果ガスの排出に応じて負担を課すカーボンプライシングの導入について、検討を進めることも明記した。脱炭素に向けて欧米や中国などでは導入が進むが、日本は検討が遅れている。世界最大の排出国である中国が排出量を依然増やし続けるなど、対策をめぐる公平性も課題になり、国富の流出を防ぐため賢く立ち回る必要がありそうだ。
声明では、「適切であれば炭素に価格付けを行う仕組み(カーボンプライシング)」を含む幅広い手法を組み合わせ、排出量が少なく持続可能な経済に移行していくべきだと指摘した。
麻生太郎財務相は会議後の記者会見で「(カーボンプライシングの重要性を)言う国もあれば乗ってこない国もある」と指摘し、合意形成には時間がかかるとの見方を示す。ただ、G20では国際機関に制度の研究を求める方針で、次回の10月会合で制度全般への支持を打ち出す可能性がある。
カーボンプライシングは、排出量に応じて企業や家庭に経済負担を求める制度。排出量に比例して課税する「炭素税」と、企業ごとに排出量の上限を定めて超過企業と下回る企業との間で排出権を売買する「排出量取引」が代表的だ。
2050年脱炭素化への取り組みが広がる中、世界銀行によると既に64カ国・地域がカーボンプライシングを導入し、世界の排出量の約2割をカバーしている。脱炭素には革新的な技術の開発が不可欠だが、日本が13年比46%削減を掲げる30年までの中期目標には間に合わず、課金による強制的な排出削減や、炭素税収を財源にした政府の政策支援に頼る部分が大きい。
先行導入した欧米では、規制が緩い国との間で国際競争力に差がでないよう、製造過程などで排出量が多い輸入品に課税する「国境炭素税」導入の動きもある。対策が遅れた日本企業は今後、事業活動で不利な立場に立たされる恐れがある。
こうした中、菅義偉政権はカーボンプライシングの本格導入を検討する。日本は平成24年に化石燃料の税率を上乗せする地球温暖化対策税を創設したが、欧州などに比べ負担は小さく、課税強化が課題になる。
ただ、産業界では負担増への懸念が広がり、秋の衆院解散・総選挙を前に議論は進まない。日本は京都議定書で実現困難な目標を掲げ、未達分の排出権を中国などから購入し数千億円の国富が流出した苦い経験があり、「空気の売買」に抵抗感が根強いのも事実だ。
世界の排出量シェアの3割を占める中国は30年までかけて排出削減に転じる計画で、同3%に過ぎない日本が世界の温暖化対策に貢献できる余地は限定的。とはいえ先進7カ国(G7)は脱炭素の実施ルールを議論する11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に向け、高い目標を掲げることで中国に対策強化を迫る構えで、日本も同調を求められる。企業の国際競争力を損なわないよう、カーボンプライシングの制度設計には知恵を絞る必要がありそうだ。
(田辺裕晶)
炭素の価格付け推進 対応遅れた日本に負担も - 産経ニュース
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