ジョー・バイデン米国大統領は8月12日、製薬会社の処方薬の価格引き下げを促すための法改正を議会に要請した。米国では医療費の高騰が深刻な問題になっており、バイデン大統領は薬価の引き下げを公約に掲げ、国民の医療費を抑えながら、良質な医療サービスを提供できるよう働き掛けている。
今回の発表は、バイデン政権の経済政策である「より良く再建する(Build Back Better)」を推進するため、高騰する処方薬の価格引き下げを目的とした対策を議会に呼び掛けたもの。具体的には、連邦政府が運営する高齢者向けの公的医療保険「メディケア」が製薬会社と処方薬の薬価交渉を行えるよう法改正を求めた。現在は両者間で価格交渉することが法律で禁じられているが、市場に競合が存在しない高額な医薬品の一部について、メディケアの運営側と製薬会社が適正な処方薬の価格に合意できる枠組みやインセンティブが必要だと指摘した。また、インフレ率以上の値上げを行った製薬会社には罰則を科すとともに、メディケア加入者が薬価に支払う自己負担額に新たな上限を設けるよう指示した。
バイデン大統領はホワイトハウスで行った同日の記者会見で、新型コロナウイルスのワクチン開発を迅速に行った製薬メーカーの功績を高く評価したものの、新型コロナウイルスのパンデミックを契機に、米国の高額な医療費が深刻な問題であることがあらためて認識されたと強調した。「長年にわたり、多くの処方薬の価格はインフレ率を大幅に上回った」とし、「これらの価格は、あまりにも多くの家庭を圧迫し、尊厳を奪った」と主張した。
バイデン氏の発表に対し、米国商工会議所のニール・ブラッドリー副会頭は12日、声明で、「バイデン政権が提案している価格統制は、新型コロナウイルスワクチンのような画期的な製品開発を可能にした研究投資に対する課税であることにほかならない」と指摘するとともに、「価格統制は、研究開発投資の減少と米国内の雇用の減少を招く。米国は次の公衆衛生上の危機への備えができなくなり、がんやアルツハイマー病など、その他多くの疾患の治療法開発を遅らせることになる」と批判の声を挙げた。
バイデン大統領は2021年7月、国内市場の競争促進のための大統領令(2021年7月12日記事参照)に署名しており、その中で処方薬価の引き下げを含めた、複数の分野における大企業の反競争的行為を取り締まるよう各担当機関に指示している。また、同時に処方薬の価格が低いカナダから医薬品を輸入する計画を各州と協力してまとめるよう連邦当局に指示しており、価格を抑えたジェネリック医薬品やバイオ医薬品の開発と普及を促進するよう働き掛けている。
ホワイトハウスによると、米国人の処方薬に対する出費は他国の2~3倍となっており、処方薬を服用する米国人の4人に1人は、医薬品を購入する経済的余裕がないとされている。一部の推計によると、米国では2014年以降、処方薬の価格は33%上昇しており、医薬品の急激な価格上昇が深刻な社会問題になっている(NBCニュース8月12日)。
(樫葉さくら)
バイデン米大統領、処方薬の価格引き下げを議会に要請(米国) | ビジネス短信 - ジェトロ(日本貿易振興機構)
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