なぜガソリン価格高騰だけに対応するのか
経済産業省は、ガソリン価格高騰への対策として補助金制度を導入する方針を16日に示した。制度の詳細はまだ決まっていないが、ガソリン価格が全国平均で1リットルあたり170円を超えた場合に、政府が元売り事業者に対して補助金を出し、5円を上限に支給することが検討されている。元売り業者がガソリンスタンドなど小売業者に販売する際のガソリン価格を、補助金の分だけ引き下げることがその条件となりそうだ。年末年始までの開始を目指し、2022年3月までの期間を念頭に置いているという。 しかし、この異例の補助金制度には、かなり多くの問題点、疑問点があることが容易に頭に浮かぶ。 第1に、ガソリン以外にも輸入を通じた価格高騰は、エネルギー関連、食品関連など既に幅広く及んでいる。電力・ガス料金の値上げも同様だ。他の業界からも同様な補助金の導入を求める声が高まり、収拾がつかなくなることはないか。最終的に巨額の財政負担につながる可能性はないのか。 第2に、この補助金制度は、最終需要者である個人や運輸業者などを支援するものだが、一方で中間段階の企業を支援しないのは不公平になるのではないか。輸入原材料価格が高騰する中、最終財の生産者物価や消費者物価は比較的安定を維持している。これは、輸入原材料価格高騰の影響の相当分は中間段階で吸収され、既に中間段階の企業収益を圧迫していることを意味する。 第3に、ガソリン価格高騰の影響は、かなり広範囲な国民に及ぶ。他方、それを財政資金で支援することは、将来世代も含め国民全体の負担となる。補助金や給付などの制度は、本来、少数の企業や国民を、幅広い国民の負担で支援するものであるはずだ。
費用対効果の面から問題
第4に、ガソリン価格が170円を超えることを補助金制度発動のトリガーとした制度設計が検討されているが、170円を基準とする根拠が分からない。 第5に、補助金の上限を5円とすることが検討されているが、それでは、ガソリン価格がさらに上昇していけば、補助金の効果は薄れていってしまう。また、それに応じて補助金の上限を引き上げていくと、財政負担が膨れ上がる。 第6に、補助金の分だけ元売り事業者が小売業者への販売価格を抑えても、ガソリンスタンドなど小売業者が値下げをせずに、その分利益を得る可能性もあるだろう。当初の狙いとは別に、小売業者を支援することになってしまう可能性がある。 第7に、本来自由価格によって成り立つ市場を、政府が補助金制度によって歪めてしまうことにはならないか。 このように、少し考えてみただけでも、実に数多くの問題点が思いつく。現在、19日の経済対策取りまとめに向けて、各省庁は多くの対策案を政府、与党に集約することを求められている。バラマキとの批判を避けるために、政府、与党は、トップダウンよりも、各省庁が必要とする対策の要請を積み上げるボトムアップの形で、大規模な経済対策を作り上げようとしている。少なくともそうした体裁を整えようとしているのである。 そうした中で、費用対効果の面から問題のある対策案も多く集まってきているのではないか。この補助金制度も、そのような流れの一環と考えることもできるだろう。財政資金は国民の負担によって成り立っていることから、1円たりとも無駄にしないという姿勢のもと、経済対策の策定に向けて、政府には費用対効果の高い政策を厳選して欲しい。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
ガソリン価格高騰への対応で政府が補助金を導入(NRI研究員の時事解説) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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