2021年の年末、さまざまな意味で話題になったのがバルミューダ初の「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」だ。近年のカメラとコスパばかりに注力した製品が多い中、人気トースターなどで知られるバルミューダの参入には期待させるものがあり、8月にはIT機器を扱う新ブランド「バルミューダ テクノロジーズ」も発表された。
2021年11月16日に発売されたBALMUDA Phoneは、デザインとシンプルな使い心地に片手での操作性に注力したミドルクラスのモデルだ。ただ、バルミューダ販売モデルが10万4800円(税込み、以下同)、ソフトバンク販売モデルは14万3280円と高額でネットではその件も含め大きく話題になっている。
とはいえ、久々の日本メーカーの新規参入、BALMUDA Phoneがどのような製品かは触ってこそ分かるもの。この記事ではBALMUDA Phoneの使い勝手と、惜しかった部分の話をしていこう。
iPhone 3Gをほうふつとさせる、丸みを帯びたデザイン
まず基本的な仕様と外観を見ていこう。4.9型フルHD(1080×1920ピクセル)液晶ディスプレイを搭載。外部接続端子はUSB Type-Cを採用しており、おサイフケータイと生活防水(IPX4)に対応している。OSはAndroid 11だ。
大きさは軽量かつコンパクトで、大きさ69(幅)×123(高さ)×13.7(厚み)mm、重量138gとなる。背面は縦横の両方向に丸みを帯びており手のひらへの収まりは良い。
ただ、画面周りが横幅69mmと広く、他のコンパクトモデルと比べて特別持ちやすいかというとそこまでではない。握りやすく画面が広くて使いやすいスマホなら、「Xperia 10 III」の横幅68mmや「iPhone 13 mini」「iPhone 12 mini」の横幅64.2mm、「Rakuten Hand」の横幅63mmといったモデルが存在する。
BALMUDA Phoneのデザインは実用性よりも、「iPhone 3G/3GS」や昔の丸みを帯びたデザインケータイ、触感を少しでも良くするシボ加工風の仕上げといった要素を今風にまとめ上げ、懐かしい持ち心地を楽しめるものといった方がいいだろう。
モノラルスピーカーだが、内蔵音を聞くと納得?
電源キーと指紋認証センサーは背面の左上に、カメラと完全ではないが対称の位置に搭載されている。左手で持つとちょうど指がボタンの位置に当たり使いやすいが、右手で持つと似た感触のカメラ部分を押してしまいがち。長く使うなら、電源キーはインカメラの裏側といった覚え方をした方がいいだろう。
背面のスピーカーは、10万円台の製品ながらモノラルだが、内蔵されている着信音、アラーム音を聴くと何となく納得できる。曲名からも察せられるだろうが、90〜00年代あたりのケータイでメーカーが1〜2曲は入れていた、日常の明るさや安らぎといったイメージの着信音だ。もちろん音色は今どきのものだが、モノラルスピーカーと相まって昔のケータイやデザイン家電をほうふつとさせてくれる。一般的なスマホユーザーの価値観では理解しがたいが、レトロ家電のイメージを再現するという意味では理解できる。
ネットワーク周りは4Gに加えて5Gにも対応。ソフトバンクの他、ドコモやau、楽天モバイルの回線でも利用できる。SIMスロットはnanoSIMのみで、eSIMには非対応だ。
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中高年や高齢者を狙ったと思われるホーム画面
新規参入のメーカーでまず気になるのは、本体の剛性や組み立て精度といったごく基本的な部分だ。過去の異業種から新規参入したメーカーだと、この点で不安を感じる製品もあったが、BALMUDA Phoneは家電メーカーの製品であることに加え、スマートフォンや携帯電話で老舗の京セラがパートナーということで気になる部分はなかった。
基本的な操作方法はAndroidの標準的なものに沿っている。その上で、スマートフォンの操作性に対してバルミューダがカスタマイズしている。これはどのメーカーでも実施しているが、多くはランチャー機能やゲーミング支援といった世界共通で受け入れられる機能強化が多い。だが、BALMUDA Phoneは日本の中高年や高齢世代の共感を狙った要素が多いという印象だ。
ロック画面にはカレンダーが表示され、ロックを解除すると個人のプロフィールや電話番号、天気情報を表示できる。帯状のストライプは自由にカラーを変えられる他、登録したアプリへのショートカット機能も備えている。
世代によってはホーム画面へ個人情報を載せることに拒否感を持つだろう。もちろん、後述するカスタマイズの設定で消すこともできる。だがその一方で、電話中心の人にとっては電話番号ぐらい設定アプリを深掘りしなくても確認したいし、バブリーな時代のスーツのネーム刺しゅうなどを意識した装飾が好ましいと感じる人がいることは理解できる。
画面を左にスワイプすると、バルミューダ製のスケジューラーや時計などのツールアプリを直接操作できる。ホーム画面を上フリックで表示すされるアプリ一覧は、アプリの使用順などでソートできる。
実際の操作感は良好で、動作が遅いといったことはない。また、ホーム画面のカスタマイズ項目も充実しており、ストライプの配色やどのプロフィール情報を表示するか、どのツールアプリの表示・非表示するかなどを細かく指定できる。バルミューダ標準のホーム画面の見た目を維持したまま使うもよし、一般的なAndroidスマホのようにアイコンやウィジェットを並べるもよし。独特の世界観と、自分好みにもカスタム可能なバランスの良さを保っている。
デザインと使い勝手を両立させた独自アプリ
BALMUDA Phoneの特徴である、スケジューラーや電卓などのツールアプリもシンプルで使いやすい。自分の認識できる範囲のデータを快適に操作、整理することに長けている。
例えばスケジューラーは、ピンチイン/ウトで日別のリスト表示から1日詳細表示に変えられる直感的な操作法を採用。最小限の学習で使えて前後の予定を一覧しやすく筆者にとっても好みのUI(ユーザーインタフェース)だ。ただ「Google カレンダー」との同期には対応しているものの、予定を見る、入力する以外の機能はなく、専門アプリのようなカスタム機能やiPhoneなどで使えるメール内容からの予定の入力補助といった機能はない。スケジューラーを徹底活用している人には物足りないだろう。この使い勝手をベースに、より実用的なアプリに進化させてほしいところだ。
電卓も億や万の単位表示や、ドル円など通貨換算の機能を搭載。メモも記入内容を画面上に付箋のように貼り付けるアナログ的な整理方法は、頭で把握できる分量を扱うのには使い勝手が良い。
細かく言えばデザイン優先で見やすさや使い勝手に不満のある部分もあるし、機能面で物足りない部分も多い。だが、初のスマートフォン向け独自アプリでここまでデザインと使い勝手を両立できている点には驚かされる。BALMUDA Phoneの価値がもしこのアプリ群にあるのであれば、アプリ単体で販売してほしいと思わせるぐらい進化させてほしいところだ。
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機能面は一般的なミドルクラス、カメラ品質が欠点
一般的なスマートフォンとしてのBALMUDA Phoneについても見ていこう。
基本的には、サブの2台目スマホ、ガラケーに近い通話中心の用途向けに開発されたと思われるコンパクトモデルだ。そのため、ディスプレイは4.9型と今どきのスマホとしては小さく、インカメラを画面内に内蔵したことでアプリの縦方向の表示領域がより狭くなっている。「LINE」や各種SNSなどの利用は可能だが、今どきの縦長スマホを想定した画面レイアウトのアプリはやや使いづらく感じる。あと1行分縦長か、インカメラをディスプレイの外に搭載してほしかった。
バッテリーは2500mAhと今どきのスマホとしては控えめだが、サブ端末としてアプリを積極的に使わないなら、電池持ちで不便さを感じなかった。ただ、メインのスマホとして使うなら3000mAh以上は欲しいところ。充電はUSB Type-C端子から行え、ワイヤレス充電にも対応する。
搭載するチップはミドルクラスのQualcomm製Snapdragon 765、メインメモリは6GBだ。ストレージは128GBのものを搭載する。ベンチマークも相応の結果だ。これだけの性能なら大半の一般アプリは快適に動く。だが、10万円台の製品ならより高性能なチップが欲しい一方、サブ機ならもう少し低スペックのチップを採用して価格に反映した方が良かったようにも思える。
カメラは4800万画素Quad Bayerセンサーを搭載し、1200万画素で記録する。通常の撮影に加え、メニューから料理や夜景モードなどに切り替え可能だ。ただ、各モードで撮ると料理は見栄えはコントラストや彩度が強め、夜景も明るいが手ブレに弱い印象を受ける。いずれも標準モードで撮影し、後から画像編集した方が手ブレも少なく無難という印象だ。10万円のスマートフォンでこのカメラ性能は明確な欠点といえる。
一方、800万画素インカメラは感度が良く画質も比較的良好だ。画面が大きければビデオ会議も快適に利用できただろう。
小型化に振らない方が良く、ニッチさも欲しかった
BALMUDA Phoneの評価だが、初参入の製品としては品質が良くコンセプトもある程度うまく形にできている。だが、スマートフォンとして評価するには厳しい部分が多い。
まず、スマートフォンの本質である「アプリを快適に使うための機器」として見た場合、性能と10万円台の価格は見合っておらず厳しい評価となる。各社が今販売しているスマートフォンはまずこの要素で競争し、その上でカメラやデザイン、サービス価値に関する壮絶な競争にさらされて販売されている製品だからだ。
既存のスマートフォンと異なるモデルが欲しいという需要も理解できるが、2021年は2つ折りやカメラ特化など個性的かつ機能面での価値も兼ね備えたスマートフォンが数多く販売された年だけに、投入タイミングも悪かった。
また、日本の中高年から高齢者で、デジタル機器やネットサービスと距離を取っており、スマートフォンの利用も通話やメール、LINEあたりまでという人に対して、外観やアプリのデザインを含め、ある程度刺さるのは確か。だが、画面サイズは対象層の高齢化もあり、通話やメールがメインでも小型化に振らない方が良かったのではないだろうか。同じようなサイズ感でシニア層を対象としたスマートフォンは、富士通や京セラが競争力の高いモデルを販売している。
10万円台という価格だが、これを青山や百貨店内のバルミューダのブランドショップで購入した上で、実際には存在しないが「店頭でLINEやキャリアメールを含むサポートも利用できる」といった内容であればアリだったかもしれない。
「惜しい」と思ったのはそれだけではない。バルミューダのスマホ市場参入は非常に話題になったが、ニッチかもしれないが新しい視点の製品に期待が寄せられていたのではないだろうか。
過去にはデザインケータイの流れで、ドコモのNEC製「705i」のようにデザイン家電のamadanaが手掛けたモデルもあった。近年の例だとシャープ製「AQUOS R6」とライカ「LEITZ PHONE 1」のように、別のモデルとの兄弟モデルであることが多い。ケータイとスマホでは求められるデザインの余地や意味合いは全く異なるが、バルミューダの初期の発表時はこういった取り組みを想像した人も多いだろう。
だが、今回のBALMUDA Phoneは一般的なスマートフォンと大幅には変わらず、ここ10年で撤退した日本のスマートフォンの再発明という印象だ。
とはいえ、「シンプルに使えるスマートフォン」を目指している姿勢は見える。弱点になりがちな独自アプリも、詳しい人が使いこなすには物足りないが品質は良好だ。バルミューダがスマートフォンで実現したい価値を、今後のアプリや製品の展開で見られることに期待したい。
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