職業柄、「マンションの価格はいつ下がりますか」と問われることが多い。未来のことなんて誰にも分からないが、過去のことは解きほぐせる。
東京の都心と湾岸、川崎市や京都市の一部のマンション価格は2013年から上がり始めた。その理由は、日本銀行の黒田東彦総裁が始めた異次元金融緩和である。これがもう9年近く続いている。その間、マンションの価格は上がりっぱなしである。
黒田総裁の任期は1期が18年の4月までだった。ここでお辞めになるかと思ったが、再任された。
黒田総裁は「消費者物価が2%上昇するまで金融緩和を継続する」とたびたび言明している。ただ、これは就任以来、一度も達成されていない。
日本の金融史上で例を見ないボリュームの金融緩和が、今年の春以降は10年目に入る。多分、任期中は続くのだろう。
米国はその間、FRBのイエレン前議長が金融引き締めに入り、彼女を継いだ現パウエル議長がコロナ禍による景気後退への対策で緩和に転じた。そして昨年からその収拾であるテーパリングが始まっている。
つまり、米国は機を見て敏に金融政策を変えているのに、日本は黒田総裁の「物価上昇2%」という約9年前の目標にこだわって、異次元金融緩和を硬直させたままである。
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その間、日本の一部エリアのマンション価格は上昇を続けた。今はそれが首都圏全体に及ぼうとしている。何ともいびつな構造だと私は考える。
日本のサラリーマンの平均給与は年間435万円ほどである。しかし、今や山手線の周縁3駅くらいまでの新築マンション価格は1億円を超えるレベル。実に年収の20倍以上で、これではいくら何でも買えない。
さらに、この2年はコロナ禍によって一般的なサラリーマンの年収は低下気味である。だから郊外のファミリー向けのマンションも売れていない。多少住宅ローン金利が下がっても、手が出ないレベルに値上がりが進んだ。
そこへ住宅ローン減税の縮小が決まりそうだ。22年のマンション市場には、完全にアゲンストの風が吹いている。
かといって、新築の価格は下がらない。なぜなら、事業用地は今でも値上がりしている。今から2年先までに販売が始まる新築物件は、これまでよりも値上がりすることが確実だ。
今回の価格バブルの元を作った黒田総裁の任期終了を23年4月とすると、そこから金融緩和が多少後退しても、影響が出るのはさらに後になる。
しかし、その前に中国の不動産バブル崩壊が08年のリーマン・ショック以上の影響を世界経済にもたらす恐れもある。そうなれば、マンション価格の下落は、黒田総裁の任期終了を待たずに始まる可能性もある。
榊淳司(さかき・あつし)
住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。
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