2021年は非鉄金属価格の上昇を受けて、ユーザー業界において原材料のコスト高への対応が重要な年でもあった。販売価格の改定や歩留まり改善といった取り組みに加え、金属素材を他素材に切り替える動きも散見された。特にクローズアップされた銅とアルミについて昨年の動向を振り返る。 非鉄金属の代表品種である銅の国際相場は、昨年1万ドルを超えた。国内価格の指標である電気銅建値は昨年2月にトン100万円を超え、10月には一時134万円まで急騰した。コロナ前の2019年平均が約70万円だったことを考えると、100万円を大きく超える足元の水準は異例だ。しかしながらIoTやAI、5G、CASEなどのテーマで銅需要は先々も衰えないとの予測が大勢で、伸銅品流通からは「この先100万円を下回ることはないかもしれない」との声も上がる。 アルミの国際相場も銅と同様に価格が上昇した。しかしながら最安値1900ドルが10月の3200ドル弱に上がった程度で銅ほどのインパクトはなかった。このため銅とアルミの価格差は、21年初に6千だったものの5月に一時8160ドルまで開いた。12月時点では7千ドルを下回る水準まで落ちてきたが、それでも年初に比べると1千ドルの価格差がある。銅価格の上昇が銅製品を使用するユーザー業界のコスト増に直結している中、この価格差が簡単には縮まらないとの予想が、素材代替を図る動きにつながっている。 ユーザー業界の一例を挙げると、エアコンや住宅設備業界では銅を含む原材料価格の高騰を受けて製品価格の改定などに取り組んでいるが、さらなる価格上昇を懸念している。エアコン業界からは「銅の使用量を削減する設計変更では対応が困難になりつつある」との声も上がる。 昨年、銅価格の上昇で空調機器業界が素材代替にかじを切り始めた。空調機器大手のダイキンは21年5月、エアコンの熱交換器用材料を銅からアルミなどに切り替える方針を公表した。市況の乱高下や安定調達リスクに対応した動きで、24年度までに銅使用量をグローバルで半減させる考えだ。富士通ゼネラルも、家庭用エアコンの室外機にオールアルミ熱交換器を導入する。銅からアルミに切り替えることで製造コストは3割程度削減できるとする。 三菱電機は室外機の熱交換器や圧縮機のモーター用電線について銅でもアルミでも製造できる生産ライン・技術を整備済み。「これまでも銅価格の高騰を経験しており、アルミへの切り替えは過去から検討している。しかし銅価格だけでなくアルミ価格も上昇傾向にある」(三菱電機)とし、銅とアルミの相場を勘案した生産体制を維持するとともに、新素材の検討や変化に対して最適なコストダウンを行う姿勢を示す。 空調機器業界ほどではないが、水栓金具向け製品でも素材代替を危惧する声が聞こえ始めた。水栓金具製品には加工性の良さや抗菌作用のある黄銅が使われるケースが多く、黄銅棒の主要需要先の一つでもある。この水栓金具のうち「継手部分が銅からステンレスへシフトするのでは」(黄銅棒メーカー筋)との見方がある。ステンレス継手は市場で一定のシェアを占めているが、銅の値上がりがステンレスを上回っていることが嫌気されているもようだ。 素材転換に至るにはコストと機能のバランスが必要。空調機器材料のアルミ化は、熱伝導性などの問題をアルミがクリアしたことが最大の要因だった。一方で素材代替が困難な部材も多い。その一例が端子・コネクタなどに利用する銅合金条だ。導電性や強度が重視される端子・コネクタは、今回の銅価格上昇局面でも素材転換の話は全く聞こえていない。端子・コネクタのアルミ化をめぐっては「数十年前、今と同じように銅価格が上昇した時に話題になったことがあった。しかし強度に加え、銅レベルの導電性を求めると板厚が厚くなり、かえって価格が高くなる事態になった。結局は銅の薄肉化やコルソン系合金の開発にシフトしていった」(都内の伸銅品流通筋)という歴史がある。これが今も続いている格好で、「銅の持つ機能を磨くことで、素材代替を退けることは可能。”銅でなければ”という製品を、今まで以上に探っていくことが重要ではないか」(流通筋)とする。 金属相場の先行き不透明感はぬぐえないものの、相場高が今年も継続するとなれば素材代替ムードが一段と広がる可能性がある。代替元にとってはリスクであり、代替先にとっては好機となるがこうした駆け引きは今年も続くことになりそうだ。 素材代替につながる注目テーマ 素材代替は金属価格の上昇を理由としたものだけでなく、環境や軽量化などさまざまなテーマで動きが出ている。アルミなどで注目されるテーマを紹介する。 脱プラ+アルミ容器 海洋プラスチック問題をきっかけに脱プラスチックの動きが本格化する中、飲料容器をプラスチックからアルミ缶への切り替えが広がりを見せている。特に急激な動きを見せるのが北米や欧州で、製缶メーカーはアルミ缶の生産ラインを相次いで増強している。日本では、飲料メーカーが中心となってペットボトルの水平リサイクルに取り組む動きが本流のためにアルミ缶化の動きは鈍い。 しかしながらアルミの優れたリサイクル特性に対しては注目する企業が増えている。「無印良品」を展開する良品計画は、2021年4月からドリンクのパッケージをアルミ缶へ完全に切り替えた。また飲料容器では、イベント会場などで利用されるプラスチックカップをアルミカップとして提供する動きも試験的に始まった。さらに飲料容器以外でも、P&Gジャパンがヘアケアブランド「パンテーン」の詰め替え容器をアルミボトルで販売し始めた。プラスチックからアルミへの流れは今後も続きそうだ。 軽量化+アルミ 自動車の電動化や低燃費化に伴って軽量化ニーズが高まりを見せる中、外板や構造材料に高強度アルミ材料を使う動きが2010年代中ごろから欧米で本格化。日本でもこの動きが強まっており、特にボンネットやドア部分に使用するアルミパネルは出荷が大きく増えている。アルミ価格の上昇で”鉄戻り”を懸念する声もあるが、「軽量化のためにはアルミと鉄をバランスよく使うことが需要。アルミパネル需要が急減することはないと見ている」(アルミ圧延メーカー筋)とする。 自動車ではワイヤハーネスで銅からアルミへの転換が加速している。自動車の高機能化に伴い、1台当たりの電線量が増えている。アルミは銅に比べて比重が3分の1、導電率が3分の2程度のため、同じ電流を流すには電気導体の太径化が必要になるが、軽量化は実現ができる。 なお軽量化目的は自動車分野に限ったものではない。最近では、半導体製造装置部材をステンレスからアルミフレームへ切り替える動きも散見されている。 断熱性+樹脂 金属から樹脂に切り替わる動きもある。住宅サッシはアルミ製が主流だったが、アルミフレームと単板ガラスの窓は断熱性が低いだけでなく、結露が発生しやすい。こうした課題を受け、近年は断熱性の高い樹脂サッシやアルミ樹脂複合サッシを採用する住宅が増加。大手サッシメーカーもサッシの樹脂化を推進する動きが広がっている。
非鉄金属価格高騰、進む素材代替。銅価高でアルミ・ステンレスへ転換も(鉄鋼新聞) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース
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