ジョナサン・ジョゼフス、ビジネス記者
世界銀行は26日、ウクライナでの戦争が1970年代以来で「最大の商品市場ショック」を引き起こすと警告した。
この日発表した商品市場見通しによると、紛争による混乱は天然ガスから小麦、綿花に至るさまざまな製品で大幅な価格上昇をもたらすという。
世銀の上級エコノミストで、報告書の共同執筆者のピーター・ネーグル氏はBBCの取材に対し、価格上昇は「非常に大きな経済的・人道的影響を及ぼし始めている」と語った。
「世界中の家計が、生活費の危機を感じている」
「私たちは特に、最貧困層の世帯を心配している。最も貧しい家庭は、収入の多くを食料とエネルギーに費やしているため、今回の価格高騰に対して特に脆弱(ぜいじゃく)だ」
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世銀は、エネルギー価格が50%超上昇し、家庭や企業の光熱費が押し上げられるとみている。
最も値上がりするのは欧州の天然ガス価格で、コストは2倍以上になると見込み。来年と2024年には値下がりが予測されているが、それでも2021年より15%高い水準にとどまるという。
2020年4月の安値から今年3月の高値まで値上がりは、中東地域の緊張で原油価格が高騰した1973年以来、「23カ月間で最大のエネルギー価格の上昇」だと、世銀は説明している。
同様に、原油価格も2024年まで高止まりすると予想されている。指標となるブレント原油の1バレル当たりの平均価格は今年100ドルとなり、広範なインフレにつながるとみられている。
ロシアは世界の石油の約11%を生産しており、世界第3位のシェアを持つ。しかし、制裁によって外国企業が撤退し、技術へのアクセスが減少するため、「戦争による混乱は、持続的な悪影響を及ぼすと考えられる」と報告書は述べている。
また、ロシアは現在、欧州連合(EU)のガスの40%、石油の27%を供給しているが、欧州各国政府はロシアからの供給から自国を切り離そうと動き出している。そのため、他の国からの供給に対する需要が高まり、これが国際価格を押し上げる要因となっているという。
小麦の価格も記録的な高値に
今回の商品見通しで世銀は、多くの食品価格が急上昇すると警告している。国連の食料価格指数はすでに、60年前の記録開始以来、最高値を記録している。
中でも小麦は42.7%上昇し、ドル換算で過去最高を記録するとみられている。そのほか、大麦は33.3%、大豆は20%、油脂は29.8%、鶏肉は41.8%の上昇を見込んでいる。こうした値上がりは、ウクライナやロシアからの輸出激減を受けたものだ。
米投資JPモルガンによると、戦争前の両国は世界の小麦輸出の28.9%を占めていた。また、格付けのS&Pグローバルによると、多くの加工食品の主要原料ヒマワリの世界供給の60%を占めていたという。
さらに、肥料や金属、鉱物を含む他の原材料の価格も上昇する見込み。一方で、値下がりが予想される数少ない原材料には木材、茶、米などがある。
バンク・オブ・アメリカは調査報告の中で、「小麦は最も代替が難しい農産物輸出品のひとつ」だと指摘。北米と中国の天候不順が、ウクライナの供給減少の影響をさらに悪化させる可能性が高いと述べた。ウクライナでは春の種まきが戦争に阻害されているため、生産減の影響が続くとみられている。
また、ウクライナからの穀物と油糧種子の出荷は、戦闘のために80%以上減っているが、この輸出の損失は、1年間で「世界の食糧供給の約10日分に相当する」という。
世界4大食品取引会社の一つ、米アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドのフアン・ルチアーノ最高経営責任者(CEO)は、価格がすぐに下がるとは思っていないと述べた。
「我々は穀物供給が縮小するとみている。カナダの菜種の不作、南米での不作、そして今回の黒海沿岸地域の混乱によって、今後数年間は世界の穀物市場で逼迫(ひっぱく)が続くと予想している」
世銀のネーグル氏は、他の国々は中期的には、ウクライナの戦争による供給不足を解決することができると述べた。しかし、今年の肥料価格が69%上昇すると予測されていることから、「農家が肥料の使用量を減らし始め、農業の収穫が減少するリスクは、現実的なものだ」と指摘した。
世銀の報告書は商品全体について、「一般的に価格は2022年にピークを迎えると予想されるが、以前の予測よりもはるかに高い水準で推移することになる 」だろうと述べている。
さらに、「商品市場の見通しは、ウクライナ戦争の期間と、それが引き起こすサプライチェーンの混乱に大きく左右される」とも述べている。
ウクライナ侵攻で「過去50年で最大の価格ショック」=世銀 - BBCニュース
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