不動産を売却するなら、少しでも高く売りたい。しかし、一般人が思い通りの結果を得るのは至難の技――。本記事では、実家の売却を考えている若い会社員「ミツウラアサミ」と、不動産売買の秘密を教えてくれる、小さなおじさんの姿をした不思議な「家の精」とのコミカルな会話を交えつつ、不動産業界のウラや売買のヒントをやさしく解説します。
担当営業の「提案のウラ」を推察
アサミの実家が「3000万円で売れる」と笑顔で宣言した不動産会社でしたが、いざ窓口でやり取りしたところ、話の展開は想定外の方向へ。予想価格で買ってもらえそうにありません。3000万円の約束にこだわるアサミは、妥協しようとする兄とも険悪になってしまい…。
◆「2500万円なら買う」と問い合わせしてきた相手は…
家の精:人間ってのはいろいろ難儀だねえ。
アサミ:……なんだか悲しくなってきた。父さん母さんが残してくれた家のことで揉めて、お金のことでも喧嘩するなんて。私は別にお金の取り分なんていくらでもいいんだけど、なんだか私のこれまでの人生まで否定された気分で。悔しいやらうんざりするやら。
家の精:親の介護とか今回の不動産売却の件とか、アサミがいろいろ頑張ってきているのは俺がいちばん知っているよ。そりゃ腹立つよな。
アサミ:うん……。
家の精:まあ兄貴には兄貴で、いろいろ事情があるんだろうな。
アサミ:(こういう感傷的な話はそろそろ切り上げて、現実的にやらなくちゃいけないこと終わらせないと)そういえば、不動産屋の資料見てため息ついてたみたいだけど?
家の精:そうそう、それだ。この実際にうちの土地について問い合わせてきたっていう件数の資料だけど。
アサミ:うん。3000万円で出してるんだけど、2500万円なら買うっていう問い合わせばかりだったみたい。
家の精:この問い合わせてきたところってのが、不動産仲介業者や個人じゃなくて建設関係の会社っぽい名前になってるんだよ。
アサミ:……本当だ、ネットで調べてみたけど、建売をしてる会社さんみたい。この土地を買って、新しい家を建てるつもりってこと?
家の精:もしかしたら、この建築業者ってのは問い合わせてきた買手候補じゃなくて、もとからオダテル不動産の取引先かもしれんな。
◆不動産会社が「勝手にディスカウント」していたら…?
アサミ:どういうこと?
家の精:つまりこういうことだ。不動産屋の担当者が、仲の良い取引先に「この土地いかがですかー」って声を掛けているんだよ。
アサミ:それっていいことなんじゃないの。私たちの代わりに営業してくれるんだから。
家の精:ここまでは確かにありがたいことだよ。でももし「3000万円で募集してますけど、お世話になってるのでお安くしますよ」なんて営業していたらどうする?
アサミ:それは納得できないわね。
家の精:そんで取引先から「2500万円なら買うよ」って言われたから、今日わざわざアサミと兄貴に招集かけて、問い合わせは2500万円が多い、だから安くしませんか、ってジャブを打ってきた。っていう流れかもしれんってことだ。
アサミ:うーん、でもさ。不動産屋さんも、売却価格に応じた報酬がもらえるわけだから、値下げするのは不本意じゃないの?
家の精:相変わらず考えが甘いなあ。契約が売主と不動産屋の間だけなのだとしたらそうだけど、この建売業者ともなにかしらの契約を結んでいたらどうだ? 双方代理とかな。例えば3000万円で売りに出したところ、結局この建売業者に2500万円で売ることになったとしよう。この売買で仲介業者が売主から受け取る報酬は、法律上は税抜きで「3%+6万円」以内、つまり81万円だ。
アサミ:3000万円でほかの買手がついた場合は、えーっと、96万円か。15万円も不動産屋さんの報酬が下がっちゃうことになるわね。
家の精:でも、買主である建売業者とも契約を結んでいたら、こちらからも報酬が受け取れる。同じく「3%+6万円」、81万円だ。
アサミ:81万円と81万円で162万円!
家の精:そう。仮に別の仲介業者が代理としてついている買主に3000万円で売っていたら96万円の報酬だけど、買主とも売主とも仲介契約を結んでいれば、売値が2500万円でも162万円の取り分になるってことだ。だから、多少安値でもいいからとにかく自分らが仲介しているところで売買成立させたいかもしれないんだよ、不動産屋は。
アサミ:双方代理って売る側にとってはいいことなさ過ぎ!
家の精:しかもだ。この建売業者が購入し、土地に新しい家を建てたら、この不動産屋が販売に携わるのかもしれん。契約が取れたらさらに報酬はガッポリだ。一つの土地で、3倍以上もおいしい思いができるのさ。
アサミ:……だから、安くてもいいから早く売ろうと急かしているかもしれない、ってことなのね。
家の精:まあ、あくまでこの資料を見たうえでの想像だけどな。
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