Apple MusicとAmazon music HDを中心に、ハイレゾストリーミングサービスも広がり、アーティストやエンジニアが最良の形として制作したスタジオマスターに近いデータを、気軽に楽しめるようになった。そんな音源を“聴く手段”も増えているが、その中で長い歴史を持ち、今も現役で使われているのがPC等と組み合わせるUSB DAC。一時期に比べて新製品の登場ペースは鈍化しているものの、一定の人気を誇るジャンルだ。
そんなUSB DACで今回紹介するのは、ノースフラットジャパンが開発販売をするFX-AUDIO-ブランドの新製品「DAC-SQ4J」だ。小型でハイスペックながら、直販価格は12,880円とリーズナブル。
FX-AUDIO-は、USB DAC以外にも、プリメインアンプや真空管アンプなども展開しているが、そのどれもがとにかく小型で安い。製造は中国だが、安かろう悪かろうのイメージを感じさせないよう、現地日本人スタッフの監督による安定した高品質が自慢だ。
ピュアオーディオ機器の価格に慣れていると、1万円前半のUSB DACと言われると「音が出ればいい」くらいに思われるかもしれない。ところがどっこい。FX-AUDIO-は、期待を良い意味で裏切ってくれる。
小型で低価格ながらハイレゾへの対応は十分
DAC-SQ4Jは、プリアンプ機能を備えたUSB DAC兼DDCだ。
USB DACとしては、384kHz/32bitまでのPCMと、DSD256(DSD 11.2MHz)まで対応する。Macなどで使うDoP再生では、DSDはDSD128までだ(実質的に5.6MHz)。アナログ出力は、RCAを搭載。出力ボリュームは可変のみだ。
FX-AUDIO-の製品としては、ファン待望となるDSD対応を果たしたモデルで、ハイレートの384kHzまで再生出来るとあって、同ブランドの中でも非常に気合いの入ったフラグシップモデルといえよう。
サイズや重量は、FX-AUDIO-らしい手軽で設置性の高い仕様になっている。外形寸法は98×122×33mm(幅×奥行き×高さ)、重量は280gと机の空いたスペースに気軽に置ける。リモコンが同梱されており、電源のON/OFFやボリュームの調整、ミュートが可能だ。
DDC機能は、PCから音声をデジタルで出力する際に利用する。光デジタルと同軸デジタルの出力を備え、PCM 192kHz/24bitまでのPCMと、DSD64(DSD2.8MHz)までのDoP出力に対応する。AVアンプや、よりハイエンドなDACとの連携が想定される。
ハイレゾを本格的に楽しんでいない方に向けて解説すると、市場に流通するハイレゾ音源のほとんどはサンプリングレート96kHz、ビット深度は24bitまでだ。本機のように384kHzの32bit整数まで対応していれば、ほぼ全てのPCM音源を再生出来る。DSDにしてもDSD256、つまり11.2MHzまで対応なので、こちらもDSD音源の全てをサポートしている。MQAに対応しないのはちょっと残念だが、そこまでこだわる方は、よりハイエンドな製品を選ぶことだろう。768kHzにしても言うに及ばずだ。
つまり、手に取りやすい価格のUSB DACにもかかわらず、ハイレゾ音源への対応は将来にわたり心配無用といっていい。音楽ユニットBeagle Kickとして、768kHz/32bit整数を唯一配信販売している筆者が言うのもなんだが、ハイレート競争はとっくに廃れているので、対応スペックは必要十分という訳だ。
DAC-SQ4Jの仕様に話を戻そう。FX-AUDIO-は、直販サイトや公式ブログなどで基板の写真や電子回路のこだわりについて詳らかに紹介している。これらは、電子回路(弱電)に詳しい方にはたまらない情報開示で、筆者のような強電の勉強をしてきた人間にとってもときめきを覚える内容だ。懇切丁寧な情報開示はメーカーのポリシーでもあり、DAC-SQ4Jも例外では無い。
USBレシーバーには、XMOS製「XU208」を搭載し、DACチップにはESS Technology製「ES9038Q2M」を採用。音質の要となるDAC ICにはフラッグシップモデルを選ぶことで、音の輪郭がシャープでダイナミックレンジが広く、空間表現力の高い超高解像度・超高音質を実現したという。ES9038Q2Mといえば、海外ブランドの20万円を超えるようなUSB DACにも採用されているDACチップだ。
最終段のオペアンプは音質的に有利となるDIPタイプのオペアンプを採用。コストダウンと小型化のためには、貼り付け(SMD)タイプのオペアンプが通例だそうだが、ICチップの両長辺にピンのあるDIPタイプにこだわった。オペアンプの位相補償用コンデンサには、周波数特性が良くひずみが少ない、オーディオ特性に優れたC0G特性のMLCC(積層セラミックコンデンサ)を採用し高音質化を図っている。
また、抵抗も音質が大きく劣化する貼り付け抵抗は避け、低コストかつ高音質なMELF(メルフ)抵抗を採用した。MELF抵抗は、チップ抵抗の一種で、円筒形の外観が特徴。基板写真にも見つけることが出来る。右側下部の青いラインの入っている小さな部品がそれだ。
他にもUSBラインのコモンモードノイズを減衰させるフィルターや、USBバスパワーを低ノイズ化するためと思われる絶縁型DC-DCコンバーターなど、随所に高いこだわりが伺える。
コンパクトなアクティブスピーカーと組み合わせる
USBバスパワー駆動のUSB DACということで、リビングにあるPCと接続して試聴してみる。まず、システムをシンプルにするために、USB DACとアクティブスピーカーという構成を組んだ。スピーカーはフォステクスの「PM0.3H」(オープンプライス/実売約19,800円)をセレクト。7.5cmウーファーと1.9cmのツィーターを備えた、ミニマムなアクティブスピーカーだ。
電源はACアダプター駆動となる。左右のスピーカー同士は、モノラルミニプラグのスピーカーケーブルで接続するのだが、手元にあったオルトフォンの「6NX-MPR30 M/M」を使用した。+と-なので、モノラルプラグが本来のところ、ステレオミニプラグでも使用は出来た。もちろん自己責任だ。
DAC-SQ4J側の準備は簡単。MacはUSBで繋ぐだけで使用出来る。Windowsの場合は、取扱説明書のURLから専用のASIOドライバーをダウンロード。インストールしたらすぐに使える。
HQ Player 3でハイレゾ音源を再生。せっかくなので、DSD11.2MHzや384kHz/32bitといった対応限界のフォーマットも再生してみた。
1万円前半のDACから出る音、少し身構えてしまっていたが、スタジオマスターの持つ情報量や繊細さ、躍動感など、基本的な要素はしっかり伝えてくれる。RCA出力の出音は癖の無いウェルバランス。何を聴いても相性を感じさせない素直な音という印象だ。
映像コンテンツも試聴。見放題サービスのhuluから新作公開も間近の「ジュラシックワールド」。huluは、非可逆圧縮のAACないしドルビーデジタルプラスのフォーマットとなるため、Windowsの既定の形式を48kHz/32bitに設定した。お好みで384kHz等のアップサンプリングで視聴してもいいと思う。
音の違いは良い悪いというより、好みの領域だと感じた。48kHzは押し出しがあって芯のある力強い音。純度は高い。384kHzは音の強弱や緩急がより見えやすい傾向だった。どことなく優しい音で聴き疲れはしなさそう。ASIOコントロールパネルの初期設定はセーフモードONで、バッファサイズは最大を自動選択していた。これは基本的には変更しなくていいだろう。
肝心の音声は、パソコンやモバイル試聴向けに2ch MIXをソースにしている模様。ダイナミックレンジは、聞きやすく狭められている。雑踏の人々の声、機械音やエンジン音など、細かい音がスッと耳に入ってくる。盛大にBGMが鳴っていても、台詞も含めてよく聞こえるので感心した。分離はすこぶる良好。劇場映画らしく、劇伴のオーケストラも広がり豊かに聞かせる。周波数バランスは癖がなく、生真面目さすら感じる。モニターライクと言ってもいいくらいだ。
予想以上に解像度が高く、圧縮音源のプアーさが気になってしまった。情報量が間引かれていて、高域の伸びなどに粗さが出てしまっている。これは光学ドライブを外付けしてBlu-rayの原本を観賞したくなる。質の悪さも良さも克明に描くUSB DACということだ。
防音室でより細かくチェック!
リビングの仕事用のデスクで試した後は、よりつぶさにチェックするため防音スタジオに移動。写真のような位置関係で設置した。スピーカーが前方に寄っているのは、机の反射を考慮した意図的なもの。理想は、スタンドなどを利用して机の天板から高さ方向に距離を取り、耳の位置を目がけて仰角を付けることだ。かつ、後方に設置することで、キーボードを打ちながらでも自然なステレオ音場を楽しめるようにすればいいと思う。
幸いなことにPM0.3Hは、上下方向のスイートスポットがそれほどシビアでは無く、多少上から見下ろすように聞いても大きな違和感はなかった。なお、試聴するときは少し机から離れている。
USB DACとしてのポテンシャルの高さはリビングで確認できたので、さらなるクオリティアップを目指し、スピーカーの脚回りと電源ノイズを対策してみる。
インシュレーターには、AETのVFE-4010Uを3枚ずつ使用。電源は、純正ACアダプターにノイズ減衰とバルクキャパシターのアクセサリーを追加。FX-AUDIO-のPetit SusieとPetit Tankだ。
Petit Tankのみ使用すると、多少音がクリアになって音場の見通しも改善。バルクキャパシターとしての効果は、接続先機器の電源周りの回路構成によって変わるそうだが、PM0.3Hだと気持ち音に躍動感が出て、低域に若干コシが入った印象。Petit Tankの前段にPetit Susieを挿入すると、音質が劇的に改善した。中高域に存在したかすかな歪み感が大幅に緩和されている。音場の見通しは良くなり、奥行き感や分離も向上した。楽器やボーカルは、贅肉が取れて、本来のディテールがクッキリと浮かび上がる。
Petit SusieとPetit Tankは、両方合わせても2,600円とお手頃で、専用アクリルケースキットを2個買っても3,600円と信じられない程安い。電源電圧は最大35Vまで。電流は、28V以下では5Aまで、35V時は4Aまでと大電流にも対応できるから、ACアダプターを使ったオーディオ機器には幅広く導入したい逸品だ。筆者はネットワークオーディオのスイッチングハブにも愛用している。なお、Petit Tankは、1A未満の消費電流には保証対象外となる。
他にもUSBケーブルなどこだわりたいポイントは多数あるが、DAC-SQ4Jの価格帯も考えて、今回はPC向けのフェライトコア付のケーブルにした。RCAケーブルは、ケーブルによる音質への影響を最小化したいため、筆者がリファレンスにしているAcoustic Reviveのケーブルを使用した。
ノートパソコン(Windows11)で、音楽アプリAudirvana Plus 3.5.51を立ち上げる。オーディオの出力先の設定でASIOからFX-AUDIO-のドライバーを選べば、あとは選曲や再生操作を行なうだけだ。ハイレゾなどを高音質で再生するアプリは、このオーディオデバイスドライバーの指定という一手間がある。一度選べば、当該デバイスが接続されている限り自動で選択されるため、再指定する必要はない。
CD音源から聴いてみる。3ピースロックバンド鶴より「歩く this way」。ミックスがいいとCDも良い音で鳴るんだと再確認できる。とにかく分離がいい。ギター・ボーカル・ドラム・ベースとこんなに小さなスピーカーなのにそれぞれがよく聴き取れる。
ピアノインストバンドSANOVAより「東海道メガロポリス」。48kHz/24bitで聴いた。本楽曲はピアノのローエンドがゴリゴリに入ってビートも超絶早いのだが、ピアノ低音域とベースの音階が共に明瞭に分離して捉えられるのに感心した。トランジェントも良好で、ドラムセットの立体感も再現。中低域の量感やエネルギー量は、小型のUSB DACとしては大健闘だと思う。ハイエンドなUSB DACは、高域は滑らかに、中低域は活力を増して生き生きとしてくるが、本機は決して貧相ではなく音楽の芯の部分は伝えてくれる。PM0.3Hはいい感じに低域がロールオフしていて、重低音の無理矢理感がないのが好印象。
96kHz/24bitで女性ボーカルも何曲か。音数が多いJ-POPでは、分離の良さがより生きてくる。ボーカルの録音の違い、例えば近接録音の音源も、吐息混じりのエアー感まで結構な再現度で聴いていて楽しくなる。
ホール録音のオーケストラでは、演奏が大きく盛り上がる間際に伝わってくるホールの広さや高さの感じがよく分かる。弱音のシーンで、空間が見えてくるピュアオーディオ特有のアレだ。ローエンドの再現は、スピーカーの口径の限界もあるが、ダイナミクスの急変含めて、なかなかの再現度だった。ステージの奥行き感はもっと見えると理想的。
DSDは、最大対応フォーマットの11.2MHz。Suaraの「君のかわり」。DSDらしい音の密度と滑らかさを確かに表現している。ピアノの質感や、ボーカルの芯の部分、11.2MHzならではの圧倒的な存在感は思わず目をつぶって聴きたくなる。ただ、DSDのいい意味で緩めのサウンドキャラクターはあまり感じさせなかった。DSD/PCM問わず、音の立ち上がり立ち下がりが優れるのは本USB DACの特徴だろう。
ハイレートPCMは、筆者の音楽ユニットBeagle Kickから384kHz/ネイティブ32bit整数録音の「SUPER GENOME」。サックスやコーラスの生音より生っぽい繊細かつ緻密な音量変化を、低価格をものともしない大健闘の出音で再現している。音の粒は細かく鋭く立ち上がり、サウンドステージは広大で特に前後感はスピーカーの限界を超えているかのよう。分厚いシンセサウンドは耳の横まで広がってきてゾクゾクした。試しに44.1kHz/16bit版と比較すると、音場がスン……と平らになって、いかにも録音物という感じの固い音になってしまった。
ひらめいて、DAC-SQ4Jを机に直置きから、パソコンの天板の上に移し替えると、音像にまとわりついていたモヤがとれて、滲みが軽減された。音場の見通しも良くなったので、本体の足場対策はスピーカーと合わせて行なった方がいいと思う。アクセサリーも含めて、小さな工夫を積み重ねる毎に音が良くなっていく。価格帯的には、ポン置きですぐに音を出して楽しむ製品かも知れないが、同じ機材でもその真の力を引き出すことで新たな楽しみが広がるのもまた事実だ。
実売13,000円弱の製品とは思えない、どんな音楽ソースにも合う万能ぶりを見せつけたDAC-SQ4J。さらに欲が出てきたので、USBラインのノイズ対策も実施してみた。iFi AudioのiSilencer+。USBバスパワーの電源ラインと、信号ラインの両方のノイズを低減する。REBalance機能は、DCオフセットを取り除き、ジッターによる悪影響に対処できるという。
DAC-SQ4Jに組み合わせるには、やや贅沢品なので現実的ではないかもしれないが、その効果は大きかった。前述した高域の歪み感は、さらにクリーンになって美しく聴かせるし、音場の透明度は上がりホール演奏は空間が広がったように感じた。楽器音やボーカルは、もう一段クリアにクッキリと浮かび上がった。ここまで到達すると、DAC-SQ4Jからのレベルアップは、10万円前後のUSB DAC製品を選ばないと満足できないかもしれない。いい意味でハラハラする。
番外編ついでに、NASとの直結も試してみた。Soundgenicなどのオーディオ用NASは、USB端子にUSB DACを直結して、NAS兼ネットワークプレーヤーとして使用することができる。ネットワークにNASを接続しておけば、PC要らずでハイレゾ音源などが聴けるというわけだ。コントロールは、スマホやタブレットで行う。筆者の自宅では、SoundgenicでPCM/DSDともに問題なく再生が行まえた。とにかく省スペースでシステムを完結させたいときには選択肢の一つかもしれない。
JBLのブックシェルフスピーカーも鳴らしてみる
最後に、USB DACと小型のプリメインアンプを組み合わせて、パッシブタイプのスピーカーを鳴らす。プリメインアンプは、フォステクスのAP20d。DAC-SQ4Jと大差ないサイズでありながら、20W+20W(4Ω)の出力を実現している。RCAとステレオミニの入力に対応し、サブウーファー用のプリアウトも装備する。スピーカーは、クローゼットに眠っていたJBLのSTUDIO 220をセッティングした。写真でもお分かりのとおり、サイズが大きくデスクに置くにはちょっと厳しいが、無理を承知で聴いてみた。
まず、AP20dの駆動力に驚く。STUDIO 220を難なくドライブしている。中低域の迫力は「フルサイズアンプ、どこにあるの?」と探すレベルだ。10cmウーファーを搭載したSTUDIO 220を鳴らす限り、迫力不足は微塵も感じない。インストやボーカルものを何曲か聴いてみたが、小型スピーカーではダウンサイジングされていた演奏が一気に解放されて、伸び伸びと鳴っている印象。DAC-SQ4Jの解像度の高さや自然な周波数バランスは、スピーカーが大きくなってもそのまま息づいている。S/Nもこの価格で実現出来るDAC+アンプのシステムとしては十分なクオリティだ。スペースさえ許せば、STUDIO 220よりも大きな中小型のスピーカーと組み合わせてもいいかもしれない。
ここまで見てきて、FX-AUDIO-は、今回のフラグシップモデルに並々ならぬ熱量を込めて開発された事が実感できた。筆者はFX-AUDIO-の製品をレビューするのは2度目だが、改めて同ブランドのこだわりや、どのように開発したのか、より詳しく知りたくなった。そこで、開発製造元のノースフラットジャパンの中の人にメールでインタビューしてみたので最後にお届けする(下記は、回答内容を再構成し、一部要約している)。
ノースフラットジャパン 北口誠哉代表へのメールインタビュー
――これまでのUSB DACの中でも特にハイエンドモデルとなる本機を開発した経緯を教えてください。
DSD対応ということで、現状のラインナップの中では、そのように解釈されるかもしれません。実は、今後DSD対応のDACラインナップを予定していまして、その中では廉価モデルとなる位置づけのアイテムなんです。
――FX-AUDIO-のこれまでの価格帯からすると、ハイエンドに位置する製品だと感じていたのですが、さらに上位モデルを企画しているのは驚きです。
ぜひ、ご期待いただければと思います。いろいろあって、DAC-SQ4Jの開発過程で得た経験を上位モデルに活かすことが出来そうです。
というのも、DAC-SQ4J開発の苦労や試行錯誤が当初の予想を超えていたというのがあります。元々、販売予定価格は1万円弱の設定で、企画・設計がスタートしました。しかし、目標価格を意識した部品選定をしながら何度か試作を繰り返したところ、音質が目標レベルに到達しないというジレンマに陥ってしまいました。そこで、製造コストを考えず部品の選定を行ったところ、音質は目標レベルに到達するものの、今度は販売価格が目標を大幅に超えてしまうことが明らかに。廉価モデルというコンセプトを守るために、また部品のコストを絞って試作を重ねていくことになりました。
――音質はどうしても譲れないが、価格も目標を達成したいということですね。開発過程で新型コロナの影響もあったのでしょうか。
その通りです。世界的な半導体不足で無関係な部品も高騰しましたし、急激な円安も相まって予定外のアクシデントは少なからず影響を与えました。その中で音質を保持しながら、部品コストの圧縮を試行錯誤していくことになったのです。特にこだわったのは、DACとオペアンプ回路のチューニングですね。
――ところで、基板写真の日付は発売時期の一年前になっていますがこれは?
通常は、企画立ち上がりから基板完成までおおよそ3カ月程度、更にそこから6カ月程度で販売に至りますが、DAC-SQ4Jは基板完成から約1年かかってのリリースとなりました。試行錯誤の中で、コスト度外視での設計・部品選定なども行なったのですが、そのときの試作品は、今後の上位モデルに活かせる貴重な経験を与えてくれたのです。
――なるほど。FX-AUDIO-のコスト度外視というと、個人的にはちょっと新鮮な感じがします。とはいえ、半年も開発期間が長く掛かっていますよね。価格決定は苦労されましたか?
実はそうでもないんです。開発期間が長くなってしまった部分については、上位モデルに活かされるため、そちらの開発費としてコスト計上できたのです。結果、販売価格は当初の予定を概ね達成しました。1万円を超えた分は、円安の影響ということでやむを得ない面もありましたが、音質には決して妥協はしない、仕上がりの良い製品ができたと自負しています。
ということで、波瀾万丈の開発ヒストリーを聞くことが出来た。上位モデルも予定されているようなので、今後のFX-AUDIO-のラインナップにも期待が高まる。個人的には、低価格でも音質に妥協を許さない”物作りスピリット“に注目をしているので、その路線のまま上位モデルを開発したらどんな価格以上の製品が出てくるのか楽しみだ。
DAC-SQ4Jは、小型軽量のUSBバスパワーで動作するDACとして、幅広いフォーマットに対応し、音質も価格以上の満足感を与えてくれる。ハイレゾ入門にマッチした逸品だ。
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