ウクライナ情勢などを受けた肥料の値上げが、農家に大きな影響を及ぼしている。生産コストが上がっても、野菜などの市場価格にどれほど転嫁されるかは不透明だ。経営の悪化などで離農者が増え、作付面積の減少につながる恐れもある。苦しむ農家らの声を聞いた。 (海老名徳馬)
「コストの1%、一円を削ろうとしても、肥料代も油代もこれだけ上がると、努力の上をいかれてしまう」。三重県桑名市でトマトをハウス栽培する加藤直哉さん(45)はため息をつく。昨年四月に四千五百円だった肥料一袋が、今年四月には六千八百円に。六月にはさらに値上がりした。
全国農業協同組合連合会(JA全農)が五月に発表した六〜十月の肥料価格は、輸入の尿素肥料が前期(二〇二一年十一月〜今年五月)から94%上昇。塩化カリウムは80%など軒並み値上がりし、多くが過去最高値となった。原料の輸出国であるロシアの軍事侵攻などが理由に挙げられる。
肥料の価格は長期的に上がり続けている。愛知県愛西市で葉ネギを水耕栽培する黒田耕作さん(56)は「十年前に比べて二・五倍になった。経営は限界に近い」と嘆く。使用量を三割ほど減らしているものの対応し切れていないという。
◆値上げ交渉は困難
加藤さんの場合、ハウスの加温用燃料代などの上昇も含めて経費は一割ほど増えたが「出荷価格に転嫁したくてもできない」と話す。公益社団法人「日本農業法人協会」(東京)が五月、約二千の会員を対象に行った調査では、回答した四百七法人の71・3%が経費の高騰を「価格転嫁できていない」と答えた。理由は「農業者サイドの価格交渉力が弱い」が最多だった。
生産者が価格を決める場合でも、値上げをするかは悩ましい。インターネット上の産地直送通販サイト「食べチョク」が六月、登録している生産者三百七十一人から回答を得た調査では、「値上げをした・する予定」が29・8%。一方で「値上げしたいが上げにくい」も24・9%に上った。
食べチョクで米や野菜などを販売する長野県白馬村の津滝晃憲さん(48)は「売れなければ意味がないので、簡単には上げられない」と言う。生産の経費は昨年より二割近く上昇し、経営するレストランは価格を一割程度値上げした。ほかの生産者と競合する通販サイトでは、周囲の様子を見ながら「消費税程度」を値上げした品目もある。
◆離農に拍車の恐れ
農林水産省の調査では、主に農業に携わる基幹的農業従事者は今年二月時点で百二十二万六千人。この七年で五十三万人減った。「やめる人は加速度的に増えるのでは」と黒田さん。二一年時点での平均年齢は六七・九歳と高齢化も進む。加藤さんは「農家が減ったら、国産品がどんどん高くなる可能性もある。消費者の皆さんも自分ごととして考えてほしい」と訴える。
安さ以外の価値を求める考え方も広まりつつある。食べチョクで果物や卵などを購入している東京都の田中和美さん(42)は「値上がりしてほしくはないけれど、世界情勢などを考えれば仕方がない」。動物の福祉に配慮した卵や無農薬の野菜など、信条に合う品を買うことが「消費者としての意思表示になる」と考えている。「誰かの犠牲の上に成り立つものは長続きしない。構造的な問題に消費者も関わりを持つべきだと思う」
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