【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース
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昨今、さまざまな商材における値上げの話が絶えません。主な理由として原材料の価格高騰などが挙げられますが、特に人手不足やアセット(車など)不足は大きな影響を及ぼしています。そうした中、ユニバーサルスタジオジャパンやディズニーランドをはじめとした多くの企業が「混雑の緩和(需要の分散)」「利益の拡大」を狙って、需要に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」を採用し始めました。この意思決定のキモとなるのが需要予測です。今回は、需要予測をベースとした、経営の意思決定について解説します。
東京工業大学卒業。化粧品メーカー資生堂で様々なブランドの需要予測を担当した後、S&OPグループマネジャーを経て、NECシニアデータサイエンティスト。コンサルティングファーム需要予測アドバイザー、JILS「需要予測の基本」講座講師、「需要予測研究会」ファシリテーターを兼務。Journal of Business Forecasting(IBF)などで需要予測の研究論文を発表。著書に『需要予測の戦略的活用』(日本評論社、2021)など多数。YouTubeで一般向けに需要予測を解説している他、10月に製造業向けの需要予測相談ルームを開設。
爆増するダイナミックプライシング
経営を進める上で需要と供給は、意思決定の大きな要素となります。需要過多であれば機会損失などを、供給過多であれば過剰在庫などを招くため、需要と供給のバランスを考慮して調整する必要があるのです(図1)。
主な需給バランスの調整方法として「価格」が挙げられますが、昨今では需給バランスを考慮して価格を変動させる「ダイナミックプライシング」の導入が急増しています。その価格決定のベースとなるのが需要予測です。
しかし需要に影響する要素は、為替レートや天候、コロナの感染状況、自社・競合のプロモーションなど多数あり、最新の環境や条件を踏まえてアジャイル的に需要を予測することは簡単ではありません。そこでさまざまな業界で導入され始めているのが、需要予測AIを使ったダイナミックプライシングです。
ユニバやディズニーも採用、価格決定のメカニズムとは?
2022年10月29日の日経新聞の記事で、ダイナミックプライシングが取り上げられました。ユニバーサルスタジオジャパンやよみうりランド、東京ディズニーリゾートといったテーマパークの入園料や、大リーグの観戦チケット代の価格設定について述べられています。ダイナミックプライシングは基本的に、需要が大きくなりそうな時期に価格を上げ、閑散期に下げるといった値付けをするものです。みなさんもゴールデンウィークやお盆、年末年始などの高い航空機料金やホテル代は記憶にあるでしょう。
取り組みが先行する大リーグでは、先発投手やその時のチームの順位(成績)、天候などを考慮して20種類以上の価格バリエーションがあるとのことです。チケット代を細かく調整することで、人気のある試合ではできるだけ利益を拡大し、そうでない試合でもできるだけ席を埋め、利益を確保することを狙っているのです。
これを実現するためには、その時の条件の場合にチケット代がいくらなら、席がある程度埋まり、利益を最大化できるかを正しく予測することが必要になります。その時の条件とはたとえば、「勝利数がリーグで1位と2位の投手による投げ合い」「シーズン終盤でリーグ優勝に関わる試合」「野外球場で天気は小雨の予報」といった組み合わせのことです。
これは、筆者が過去のコラムで解説した時系列モデルでは対応できません。需要の因果関係をベースとした因果モデル(Cause and Effect Models)を構築し、シナリオ分析をするというメカニズムが必要です。(図2)。
需要予測AIの多くは因果関係を踏まえたデータで学習するので、需要のシミュレーションに対応できるというわけです。しかしダイナミックプライシングには、導入する時に留意すべきことがあります。
【次ページ】ウーバーがはまったダイナミックプライシングの「落とし穴」
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