ウクライナ侵攻後に急騰した石油・天然ガス価格が今年に入り下落。OPEC減産発表にもかかわらず上昇しない。需要の伸び悩みもあるが、OPEC非加盟国が昨年の価格上昇を受け、増産に向かっている点が影響している。今後は需要拡大が予想され、価格も多少は上がりそうだが、昨年のような急騰はもはや起こりそうにない。
ロシアがウクライナに侵攻してしばらくの間は、少しでも不穏な動きがあろうものならエネルギー価格が急騰する状況だった。米国の天然ガスプラントで火災が起きたり、フランスの製油所でストライキが起こったり、ロシアが欧州に燃料代金のルーブル払いを求めたり、天候不順が予想されたりするたびに、市場は大きく揺れた。
しかし、2023年1月を過ぎると風向きが変わった。欧州の原油価格の指標である北海ブレント先物相場は、1バレル当たり75ドル(約1万800円)前後で推移している。1年前は同120ドルだった。欧州の天然ガス価格も、22年8月のピーク時から88%下落。現在は1メガワット時当たり35ユーロ(約5500円)だ。
価格高騰をもたらす悪材料がなくなったわけではない。石油輸出国機構(OPEC)とそれに協調する国々は、大幅な減産を発表している。米国では7週連続で石油・天然ガス掘削装置の稼働数が減少。(価格が安いので)生産者が見返りの少なさを見て掘削を控えているのだ。そして、今や欧州の「命綱」ともいえるノルウェーの天然ガス施設の一部は保守作業を延長している。オランダは欧州最大のガス田を閉鎖する予定だ。それでも、上昇しかけたエネルギー価格はすぐ失速する。なぜだろうか。
原油需要は低迷していない
需要低迷が影響しているのだろうか。このところ、世界の経済成長への期待が薄れている。米国では、3月に発生したシリコンバレーバンクの破綻で景気後退懸念が高まった。欧州の消費者はインフレに苦しんでいる。中国の景気回復も思ったほどではない。その鈍さはエネルギー需要を低下させる。
米国はガソリン価格が1年前より約30%下落。この夏、人々の移動は活発化しそうだ(写真=AP/アフロ)
だが詳しく見れば、原油需要の低迷は、一面的な捉え方にすぎない。経済の回復が思わしくないとはいえ、中国は4月に1日当たり1600万バレルという過去最大量の原油を消費した。過酷なゼロコロナ政策が終わり、運送や旅行の需要が回復したため、軽油やガソリン、ジェット燃料が消費されている。米国ではガソリン価格が1年前から約30%値下がりし、夏のドライブシーズンの見通しは明るい。アジアと欧州では高温が続くと予想され、冷房用の電力をまかなう天然ガス需要が高まりそうだ。
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ウクライナ危機から1年、資源価格が低迷している理由 - 日経ビジネスオンライン
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