[東京 29日 ロイター] - 日銀が大規模緩和修正の条件として掲げる2%の物価目標達成に重要なサービス価格を巡る環境が、急速に変わろうとしている。サービス価格の上昇をもたらす大きな要因である人件費を押し上げるような現象が、年明けにかけて鮮明となる可能性が高まっており、日銀の政策判断にも大きな影響を与えることになりそうだ。
<サービス価格、足元で上昇>
日銀が28日に発表した10月の物価の基調を示す指標のうち、上昇率の高い品目順に並べ、品目のウエートを加味したときの分布で真ん中の値である「加重中央値」は前年同月比プラス2.2%と、2001年1月以降で過去最高を更新した。
物価全体は高止まりする傾向を見せているが、足元ではサービス価格の上昇が目立っている。10月全国消費者物価指数(CPI)のうち、サービス価格は前年比2.1%上昇で、消費税率引き上げの影響を除けば1993年10月以来の伸びを記録。公共サービスを除いた一般サービス価格は同2.9%上昇と93年3月以来の高い伸びとなっている。
このサービス価格は、人件費の動向と密接にリンクしていることで知られ、日銀も物価上昇の要因分析として国内の賃金と物価が好循環で回っていく「第2の柱」の大きな要素として重視している。
このサービス価格の上昇が加速してくれば、2%物価目標の持続的・安定的な達成につながり、大規模緩和の修正につながることになる。
<物価上回る賃上げ、同友会と連合一致>
このところ、サービス価格をこの先に押し上げる大きな要因となりそうな現象が相次いでいる。1つ目は、来年の春闘に関する労使の動きだ。今年の春闘で連合は「5%程度」の賃上げ目標を設定し、賃上げ率は中小を含めて3.58%(連合集計)となった。2024年の春闘で連合は「5%以上」の目標を掲げ、今年を超える賃上げの獲得を目指している。
だが、足元で続く3%台の物価上昇率(持ち家の帰属家賃を除くCPI総合)の影響で、今年9月まで実質賃金は18カ月連続のマイナスを記録している。こうした中で28日に行われた経済同友会と連合の幹部会合で、来年の春闘では物価上昇を上回る賃上げを実現する方向で一致した。
物価上昇を上回る賃上げの実現には、ベースアップだけで3%台の賃上げを実現する必要があり、定期昇給(約2%分)込みの引き上げ率は5%後半から6%台になる可能性がある。財務環境で劣る中小企業の中には対応できないところが出てくるとみられるが、優秀な人材を確保したい大企業は今年を上回る賃上げ率を提示する可能性が高まっていると筆者は予想する。
<企業向けサービス価格、すでに上昇加速>
2つ目は、CPIのサービス価格に大きな影響を与える企業向けサービス価格指数の上昇テンポが加速していることだ。10月は前年比2.4%上昇、前月比0.5%上昇となっている。具体的には、インターネット付属サービスを含む情報が前年比2.7%上昇、バス運賃が同7.7%上昇、宿泊サービスが同49.9%上昇している。
バスの運行では、運転手不足で減便、運行停止となっているケースも増え、人件費上昇による価格上昇が今後も継続する可能性が高まっている。
<政府が中小の価格転嫁を支援>
3つ目は、中小企業の賃上げを円滑化させるための価格転嫁について、政府が強力に支援する姿勢を示している点だ。政府は労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針を公表し、全国的に周知・徹底を図る方針を決めた。
これに関連し、公正取引委員会が価格交渉に応じないで価格を据え置いた場合に独占禁止法違反に当たるとの指針を示すと日本経済新聞が29日付朝刊で伝えている。
こうしたルールが明確になれば、モノの価格だけでなくサービス価格にも上昇圧力がかかり、現在よりも価格が上昇する可能性が高まると予想される。
<モノの値上げ、来年4月にも>
さらに日銀が次第に値上げ圧力が弱まっていくと予想している輸入原材料高に起因した食品などのモノの価格上昇も、想定を超えて値上げが長期する兆しが出ている。キッコーマン(2801.T)は28日、デルモンテブランドのトマト調味料などを4月1日から値上げすると発表。その理由として「自社でのコスト削減努力だけでは原材料価格の上昇を吸収できない状況にある」と説明。
共同通信によると、コカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスのカリン・ドラガン社長は、円安が継続し、原材料の調達費が高止まりしているため、「コカ・コーラ」などの希望小売価格について2024年も値上げを検討していると述べたという。
来年4月以降は、モノの値上げは一巡するとの見方が一部にあるが、価格転嫁の動きは来年も継続する可能性がありそうだ。
<日銀の判断に注目>
日本の物価全体には、価格下落の流れが出てきた原油価格の動向次第で下押しの圧力が大きくなる可能性があるものの、これまで述べてきたように過去の原材料価格の上昇分が価格転嫁できていない企業が存在するだけでなく、賃上げと価格上昇のリンクが強いサービス価格の上昇が2024年には強まることが予想される。
もし、サービス価格の上昇圧力について加速する可能性を日銀が察知したなら、超金融緩和の政策修正を判断する際に、大きな材料になると筆者は予想する。
●背景となるニュース
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コラム:サービス価格上昇に加速の気配、日銀の緩和修正判断に影響も - ロイター (Reuters Japan)
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