アルツハイマー病の新たな治療薬「レカネマブ」の薬価が決まり、年内に公的医療保険の適用対象として使われることが決まった。薬価は1人あたり年約300万円の高額薬となる。当面は、投与できる医療機関が限られるため、見込まれる投与人数は年間で1万人以内ほどだが、潜在的な患者はもっと多い。こうした高額薬が医療保険財政へ与える影響について、日本大学医学部の田倉智之主任教授(医療経済学)に聞いた。
――レカネマブの潜在的な患者数は国内に数百万人とも言われています。
どういう人にこの薬を使うと効果的なのかを特定するため、ある程度投与者数を絞って治療を始め、最適な投与方法を探索していくことになります。その後、患者数が増えれば、薬の価格を下げることになります。同じような薬が出たら、先に出た薬の価格も下がります。「共連(ともづ)れ」ルールとも呼ばれています。日本の薬価制度では、財政が破綻(はたん)しないように経済原理に基づいた安全弁が設けてあります。
こうした薬価制度は、抗がん剤の「オプジーボ」が販売されるときに、議論が加速しました。オプジーボは最初、皮膚がんにしか使えませんでしたが、様々ながんに適用が広がり、投与患者数が増加。販売から4年ほどで値段は4分の1にまで下がりました。
――近年は、技術開発が高度化し、画期的な薬も様々登場しています。
薬の値段の水準と、企業側の安定供給のバランスを見極める必要もあります。さらに、新しい技術開発に対する評価をしなければ、次の薬の開発にうまくバトンタッチできません。医学は日々発展していくことが重要です。公的医療保険は、製薬企業にとってコストを回収する有力な方法で、産業育成という観点も忘れてはいけません。
――そもそも、薬の価格はどうやって決まるのでしょうか。
すでに同じような薬があれば、その薬の価格にならいます。今回のように新しい薬の場合、一つずつ原価を査定して、薬価を決めます。企業が主張するコストが妥当なのかどうか、きちんと説明が求められます。さらに、臨床的な有効性などを考慮して加算をつけます。加算で2倍くらい価格を上げることも制度上は可能です。
薬の価格は必要があれば見直されますが、きちんと費用対効果を検証しなければなりません。そのためには、薬を使う人の経過をきちんと登録して調査しなければいけません。
レカネマブの臨床試験(治験)では、投与から18カ月までしか調べていません。その先の症状がどう進行するかわかりませんし、脳血管系の有害事象が報告されていることも気になります。数年以上かけて、しっかりと有効性と安全性を判断する必要があるのです。
また、レカネマブの評価にあたり、「介護への影響」という新たな視点も議論されています。薬の投与によって、症状の進行が抑えられ、介護者の負担が減れば、その分を薬としての評価につなげようという考えです。
ただ、介護というのは認知機能の衰えだけでなく、心機能や筋力の低下など、複合的な要因も絡みます。介護への影響を薬価に反映するのであれば、この薬を使うことで、要介護度に変化があるのかも判断できるような研究を続ける必要があります。
透析は高い? それとも安い?
――では、費用対効果はどのように調べるのでしょうか。
1年間健康で生きることに対する価値を「1QALY(クオリー)」と表現します。日本では1QALYについて、500万~750万円を払うことが妥当だ、という社会全体の共通理解ができています。
例えば、過去に国の審議会で…
薬の適正な価格とは? アルツハイマー病新薬で考える「費用対効果」:朝日新聞デジタル - 朝日新聞デジタル
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