新築マンションの価格がとんでもないことになっている。
不動産経済研究所の発表によれば、首都圏(1都3県)における2023年に売り出された新築マンションの平均価格は戸当たり8101万円、㎡当たり単価で122万6000円になった。この価格の跳ね上がり方は尋常ではなく、10年前である2014年の平均価格5060万円、㎡当たり単価71万1000円と比較すれば、価格で1.6倍、単価で1.7倍に爆上がりしていることがわかる。これを東京都区部に限れば、2023年で1億1483万円、㎡当たり単価で172万7000円になっている。
いっぽう国民のお財布事情をみれば、世帯所得の中央値は2021年で423万円。いまや普通の家庭で新築マンションを買おうと思ったら、首都圏で年間所得の19倍、都区部に至っては27倍を支払う覚悟を持たなければならなくなっている。ちなみに国民の世帯所得が最も高かったのは1993年および95年に記録した550万円(中央値)であり、以降は下がりっぱなしでなかなか回復していないのが実態である。
「会社ファースト」で高まった都心居住ニーズ
国民の生活はいっこうに改善されていないのに、マンション価格だけが爆上がりしているのは何やら昨今の株価の動きにも似ている。ではどうして新築マンションはこんなに高い価格になってしまったのだろうか。
よくいわれるのが、都心居住ニーズの高まりだ。夫婦共働きが当たり前になり、郊外に住んでいたのでは子供の保育所への送り迎えがままならない。「会社ファースト」の住宅選びは必然、都心に住みたいニーズを引き出す。だが、もともと都心部はオフィス街であり、湾岸部は工場や倉庫が立ち並び、居住するにはよろしくない環境にあった。ところが産業構造の転換で多くの工場がアジアなどに拠点を移し、大都市法の改正で都心部の容積率(敷地面積に対して建設できる建物面積の割合)が大幅に緩和されたことを理由に、湾岸部を中心にタワマンの建設が可能になり、武蔵小杉や豊洲といった工場や倉庫街だったところに新たな居住エリアが開発できたのである。
土地も建設費も爆上がり
都心部で新築マンションを供給するにはどうしても仕入れる土地の価格は高くなる。大規模オフィスビルの開発やインバウンド需要の高まりを背景としたホテル需要と戦いながら仕入れる土地代は高く、これにあいまって昨今は建設費が爆上がりしている。建設物価調査会によれば、2015年を100とする建築費指数は、RC造(鉄筋コンクリート造)で2023年は126.4に急伸している。
仕入れる土地が都心部で、地価も2014年以降の大規模な金融緩和によって値上がりを続ける中で、高騰した建設費で建物を建設すれば、売り出し価格は当然高くなる。結果として新築マンションは到底一般国民の手の届かない存在になっているのだ。
こんな状況下でも、新築マンションの初月契約率は好調とされる70.3%(2023年)。つまりこんなに高いマンションでも売り出し初月で70%が契約できるのだ。いったい誰が買っているのだろうか。
当然、買い手は一般国民ではない。多くが国内外の富裕層、投資家、相続が心配になった節税需要、そして東京都区部などに多く暮らすパワーカップル(夫婦合算年収で1500万円以上の世帯)だ。
都心マンションを物色するパワーカップル
野村総合研究所の調査によれば、純金融資産(不動産などを除く金融資産から負債を控除した額)で1億円以上を保有する富裕層は全国で148万世帯に及び、その数は年々急速に増加している。こうした人たちが資産の分散や投資を理由に都心マンションを物色している。またアジアを中心とした投資家が円安を武器に日本の不動産を買い漁っている。また年間で144万件(2021年)ほどの相続が発生するうち、9.3%に相続税が課せられている。世界的にも高い相続から少しでも逃れたい人たちが対策の一つとしてマンションを買っている。
パワーカップルはどうだろうか。ニッセイ基礎研究所の調べでは2022年でその数は37万世帯。全世帯の0.66%、共働き世帯に限っても2.25%の希少種ではあるものの彼らは果敢に新築マンションを買おうと頑張っている。
パワーカップルを全力で応援しているのが低金利だ。住宅ローンは短期プライムレートに連動する変動金利で約2.5%、超長期の固定金利で約2.9%程度だ。仮に金利2%として期間35年とし、年間返済額を年収の25%を上限としてシミュレーションすると、年収1500万円の世帯で借入可能額はなんと9433万円になる。多くの金融機関は様々な特典を付けて金利優遇措置を用意していて、金利が0%台前半になるものまである。これに住宅ローン控除などの優遇策を使えば、1億円以上の調達は容易にできる。
新築マーケット、中古マーケットの二分化へ
現在の新築マンションマーケットはこうした構造の上で成り立っており、一般国民ははなから相手にされていないことがわかる。こうなると一般国民はどうしたらよいのか。中古マーケットに向かわざるを得ない。実際に中古マンションマーケットは活況で、2023年の首都圏での成約戸数は3万5987戸と新築マンション供給戸数2万6886戸を上回っている。マンションストック自体はすでに700万戸あり、中古マーケットは成長しているので、何も無理しなくても中古マンションを買えばよい環境になっている。最近はリフォーム技術がすすみ、新築と見紛うかのような物件も多いし、購入後に自分で好きなようにリフォームする顧客も増えている。
実は新築マンションのマーケット規模は2014年の2兆2272億円に対して2023年は2兆1780億円と横ばいであるのにたいして中古マンションは、2014年の9216億円から2023年には1兆6464億円と1.8倍もの成長を遂げているのである。
マンションマーケットは今後も、一部の金持ちと、金持ちになろうとチャレンジしている層だけを相手にした新築マーケットと、これからの多死・大量相続時代にあふれ出てくる中古物件を吟味して買う中古マーケットの二分化がますます鮮明になることだろう。
ただし、新築でも中古でも、これからの金利動向やリモートワークを組み合わせた居住地の二極化、多極化、ライフスタイルの変化などがこれからの30年で確実に起こってくることをよく考えながらマンションを選ぶことである。自分の家は何も流行や投機で買うほどのものではないのだから。
(牧野 知弘)
なぜ新築マンションはこんなに高くなってしまったのか? - au Webポータル
Read More
No comments:
Post a Comment