● 消費などの需要増による物価上昇ではなく 世界的なインフレと円安でコスト上昇
1990年代中頃まで実質賃金を上昇させてきたメカニズムは、次のようなものだったと考えられる。
資本装備率の上昇、新しい技術や事業活動の導入によって労働の生産性が高まった。これによって賃金が上昇し、消費者の所得が増加した。そのため生産物やサービスに対する需要が増え、物価が上昇した。
このように、物価が上昇したのは需要が拡大したからだった。これは「デマンドプル」と呼ばれる物価上昇だ。
それに対して、2022年以降の物価や賃金の上昇は、このようなメカニズムによって起きたものではない。
まず、物価上昇は輸入価格の上昇によってもたらされた。輸入価格の上昇は資源価格上昇などによる世界的なインフレーションと円安によってもたらされた。原価の上昇は、販売価格に転嫁された。取引の各段階で転嫁が行われ最終的には消費者物価が上昇した。これは「コストプッシュ」と呼ばれる物価上昇だ。
物価が上昇して賃金が不変であれば、国民の生活水準は低下する。これを防ぐため、賃金を引き上げる必要が生じたのだ。また、円安によって円建ての輸出価格が上昇したので、企業の粗利益が増え、賃金引上げが可能になった。
● 賃金上昇を価格に転嫁すれば コストプッシュのスパイラルが起きる
政府はいま春闘の高賃上げが中小企業にも広がるためにコスト上昇を販売価格などに転嫁するよう中小企業に指導している。また中小企業庁は、取引先への転嫁が進んでいるかどうかを調べる「Gメン」を増員した。公正取引委員会も、優越的地位の乱用の恐れがある企業を調査する専任の部隊を設けた。
しかしこれは、生産性が上がっていないもとで、コストプッシュ型の物価・賃金の上昇が生じるようにするものだ。
賃金が上がれば消費者物価が上がる。ところが、そうなると実質賃金が下がってしまうので、さらに賃金を引き上げなければならないことになる。
これは、経済活動の拡大を伴わないスパイラル的なインフレーションを引き起こす。つまりスタグフレーションがもたらされる。
「賃金の上昇を販売価格に転嫁せよ」とは、「消費者の負担において賃金を上昇させよ」ということであり、極めておかしな話だ。
なぜこのようなことが望ましいとして政府がそれを進めようとするのか、全く理解できない。
無理矢理に名目賃金を引き上げ、それを価格に転嫁させる。そうすれば実質賃金が下落するから、名目賃金をさらに引き上げなければならなくなる。これが「物価と賃金の好循環」だと言う。
しかし、繰り返すが、これはコストプッシュ・インフレーションのスパイラルに他ならない。それは人々を豊かにするのでなく、経済を破壊する。
政府の賃金上昇の価格転嫁支援は理解できない、なぜ「スタグフレーション」を進めるのか(ダイヤモンド・オンライン ... - Yahoo!ファイナンス
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