微細な泡を含んだ水が出るシャワーヘッドが生活に浸透し始めた。節水だけでなく、美容に効果があると口コミが広がり、期待を胸に購入する人が増えている。新たなコンセプトの提案で価格も上昇し、最高額は7万円台。「バブル」の勢いは増す一方だ。
市場規模は5年前の8倍に
「使い続けると、肌や髪の調子が良いように感じる」。都内に住む30代の女性は、超微細な気泡「ファインバブル」機能付きのシャワーヘッドの愛好者だ。昨年、なじみの美容師に薦められ3万円程度の商品を購入した。「プレゼントで贈っても絶対に喜ばれる」と語る。
シャワーの先端につけ、様々な水流に変化させられるシャワーヘッド。いま、人の心をひき付ける概念は「美容」だ。「キレイの新習慣」「まるでスキンケア」。量販店の商品売り場には、思わず手に取りたくなる言葉が並ぶ。
調査会社の富士経済(東京・中央)によると、2024年のファインバブルシャワーヘッドの市場規模は183億円と、19年の8倍強となる見込みだ。高額品も増え、平均単価は1万4000円を超える公算が大きい。21年に参入したLIXILの担当者は「7万円台のものもあり単価設定が難しい」と話す。
高額なシャワーヘッドには、いったいどんな機能が備わっているのか。
現在、最も高価とみられるMTG(名古屋市)の「リファ ファインバブルダイア150」(23年11月発売、6万8000〜7万5000円)は、直径15センチメートルと大口径のヘッド部が特徴だ。
超微細な泡を含む水を「ミスト」などの運転モードで浴びると「全身が包み込まれるように感じる」(MTG)。同社の加藤寿恵ReFaブランドマネージャーは「入浴習慣のないシャワー利用者をターゲットとした。『水の肌あたりが違う』といった声をいただいている」と話す。
大阪の中小企業が火付け役
以前、シャワーヘッドといえば節水効果やマッサージ機能をPRするものがほとんどだった。ここに「美容」というコンセプトを持ち込んだのは、大阪市の中小企業、サイエンスとされる。
サイエンスはファインバブルを浴槽内で発生させる機械を主力としていた。ファインバブルは水を高速回転させて気泡を砕いたり、水に圧力をかけたりして気泡を発生させる、産業用では知られた技術だ。機械や自動車の工場で部品洗浄にも使われている。
18年、サイエンスはファインバブルの技術をシャワーヘッドに応用した。「優れた洗浄力を持つ0.13マイクロメートル(マイクロは100万分の1)の気泡を含む水流が極上の美肌タイムを実現する」として、4万1800円の第1号商品を売り出した。
ここが発火点となり、高額化が急速に進んだ。新たな付加価値が見つかったと、各メーカーがよく似た技術を導入したためだ。
農機メーカーも参入
意外な業種から参入する動きもある。農業用機械などを手掛けてきた丸山製作所もその1社で、22年10月にファインバブル仕様のシャワーヘッド「アビリア」を4万6200円で発売した。
丸山製作所はファインバブル仕様のポンプを得意とする。畑の水散布に使えばトマトやレタスなどの収穫量の増加が見込めるという機能品だ。水圧を高める技術も持つ。「シャワーヘッドは淘汰の時代が来るだろうが、機能面で他社と差別化を図る」(平山順一ウルトラファインバブル課長)と先を見据える。
各社の広告には男性も多く登場する。メンズコスメ市場の急成長など男性の美容意識は高まっており、シャワーヘッドでも伸びしろを見込んでいるのだろう。「+美容」をどう訴求するか、さらに付加価値のある領域をどう掘り起こすか。知恵比べが続いている。
女性の7割がシャワーヘッドに関心
子育て情報を提供するこどもりびんぐ(東京・千代田)が1200人強の女性にシャワーヘッドへの関心を聞いたところ、7割以上の女性が「経験あり」か「近々購入・交換したい」と答えた。経験ありの人の交換時期は最近1年以内が4割超だった。
交換したい理由(複数回答)では「節水」が64.9%で最も多く「洗浄力が高いものが欲しい」が34.5%で続いた。「保湿力が高いものが欲しい」も21.9%だった。
三井不動産ホテルマネジメントは三井ガーデンホテルズのプレミアクラス9施設にファインバブルのシャワーヘッドを導入している。「特に日本のお客様からの評判がいい」(担当者)。シャワーヘッドは特別感を高める要因の一つとなっているようだ。
(鷲田智憲)
人口の3割、安全な水使えず
国連児童基金(ユニセフ)によると、世界の人口の3割弱にあたる22億人が安全に管理された水道サービスを受けられていない。そのうち約1億1500万人は、河川や湖など地表の水源から飲料水を得ているという。シャワーヘッドの広がりを支えたのは、美容以前は節水効果だった。水をさらに効率利用できる機能性の追求は、今こそ付加価値となるかもしれない。
勢い増すシャワーヘッド価格 「+美容」で7万円台も 値札の経済学 - 日本経済新聞
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