住宅用の輸入木材不足が深刻化している。中国の木材需要の急増や、コロナ禍で大規模な金融緩和策が取られたことなどから、米国を中心に新築住宅の建設需要が急増、供給がひっ迫した形だ。さらには新型コロナウイルスの影響による輸送費の上昇なども相まって、現在、住宅用木材は一部で「かつてないような価格高騰」(市場関係者)に直面している。
不動産投資家の中には、木造アパートの新築を予定している人もいるだろう。木材不足や価格の高騰は建築費のアップにもつながり、利回りが低下する恐れがある。また木材不足により工期が延びれば、賃貸経営の計画が大きく狂う可能性も考えられる。現在、新築物件に影響は出ているのだろうか。そしてこの先の見通しはどうなっているのか。複数の関係者や投資家に取材した。
■仕入れ先から「受注制限」も
「5月着工分までの木材は確保できているのですが、その先はめどが立たない状況です」。年間約60棟の新築木造アパート建築を請け負う、アイ・ビルドの斎藤氏はこう話す。
現在、同社では14~15件の新築木造アパートの建設が進行中。柱や梁などに使う構造材の大半で、欧米産のベイマツなど海外材を採用している。すでに進行中の案件に関しては木材の確保ができているが、それより先は木材が確保できないため、「受注するにしても工期を数カ月延ばすしかない」と明かす。
仕入れ先である大手プレカット業者からは「木材の輸入量が半減しているため、受注を制限する」と通知があった。他の業者からの仕入れも行っているものの、そもそも供給量自体が減少しているため、どの業者も苦しい状況に変わりはない。
近い将来、価格への影響も出そうだ。3月まで影響がなかった構造材の仕入れ価格は4月以降上昇する見込みで、「建築坪単価にして5000円~1万5000円ほど、建て売りとしての販売価格にすると3%ほど上昇する可能性がある」と斎藤氏。当面は自社の利益率を削るなどして価格を上げずに対応するつもりだが「そうした対応にも限界がある。このままでは事業へのダメージが大きくなっていく」と肩を落とす。
今後新築を検討するオーナーに向けて「現在は世界的に住宅用の木材が不足している状況。ゆとりをもって工期や資金計画などに当たってほしい」と話した。
実需物件にも影響があるようだ。神奈川県の工務店にマイホームとして新築戸建を購入、今年2月に契約を済ませていたというある男性は、最近になって工務店から「完成時期が遅れる、今のところ目処は立っていない」と連絡を受けた。
元々は来月着工予定だったが、木材の輸入がストップしたことで、着工時期が遅れているのだという。男性は「工務店の担当者が言うには、輸入材木が激減していて着工できないとのことでした。引っ越しの時期も決めてあったし、子どもの保育園を決めて妻も職場復帰する予定だったので、生活の計画が狂ってしまいそうです」と頭を抱えていた。
■中国の木材需要増加が影響
農林水産省の統計によると、木造の構造材に使われるベイマツの価格は、昨年末以降上昇が続いている。森林ジャーナリストの田中淳夫氏はその背景について、「木材需要は世界的に急増している。特に中国の経済発展による需要増加がめざましい」と話す。
ロシアは近年、輸出していた木材に高い税金を課し、実質輸出制限を行った。これを皮切りに、中国が他国に輸入経路を増やしたことで、過去に類を見ないほど世界的な木材不足が顕著になってきたと田中氏はいう。また、米国でもコロナウイルスの影響を受け新築住宅の需要が急増、国内産木材だけでは自国の需要量に追い付かず、輸入量を増やしていることも、木材不足の一因となった。
世界各国で木材の需要が伸びているため、各国間で価格競争が起きている。そうした中、「値上げ合戦について行くことができない日本が思い通りに木材を輸入できず、供給不足になっている」というのが田中氏の見方だ。
なお、柱や梁などの構造材としては、他にも「集成材」を使う場合がある。集成材とは、「ラミナ」と呼ばれる挽き板や角材などを重ねて接着し、1本の木材として使えるように加工したもの。無垢材に比べると反りなどが少なく、寸法が安定しやすいというメリットがある。
本来であれば無垢材の代わりに集成材を使うという選択肢もあるのだが、現在、構造用の集成材にも大きな影響が出ている。
集成材メーカーの業界団体である「日本集成材工業協同組合」(日集協)は今年3月、木材不足の深刻化を受けてプレスリリースを出した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、「かつてないような価格高騰、入手難に直面」しているという。「5月以降は2割以上の減産を強いられる」可能性も示唆した。構造用集成材の国内メーカーは原材料の7割を海外から輸入していることもあり、影響は大きいようだ。
ただし、「木材価格が高騰しても建築コストに多大なる影響が及ぶことは考えにくい」と前出の田中氏は述べる。建築価格のうち、木材価格の割合は高くても2割程度に収まるためだ。コロナの影響が落ち着くまでは木材供給の安定化も難しい一方、「ワクチン接種が進み、落ち着きが見られた場合、急激に木造価格が下落する可能性もある」という。
■米国の「新築住宅ブーム」も
今回の事態のきっかけの1つとなった、米国の新築住宅ブームについてももう少し詳しく触れておこう。米国在住の不動産投資家であり、不動産仲介業も行う石原博光さんは、「米国内で住宅ブームが起きていることは確か」と話す。
「住宅ローン金利の低さや、新型コロナウイルス感染症を契機とするテレワークの推奨などが理由となって、広くて安価な郊外の住宅需要に火がついたようです」
売りに出た住宅の仲介を行うと、2~3日であっという間に契約となるなど、石原さん自身も住宅需要の高さを実感しているという。米国内で住宅売買のメインとなるのは中古物件だが、現在は中古住宅の在庫がひっ迫。「これまで何もなかった土地に、木造2階建ての新築狭小住宅が集まった住宅街ができている」など、新築需要も高まっているようだ。事実、米国国勢調査局の統計によれば、今年2月時点の新築の着工件数(季節調整済み・年率換算)は前年同月比で8.2%上昇している。
こうした状況を受けて、木材価格の高騰の報道を目にする機会も増えたと石原さんは話す。
「例えば2月には、全米住宅協会が『木材価格が10カ月の間に170%上昇した』と発表しニュースになりました。それ以降も、専門誌を中心に似たような報道がされています」
■投資家「価格より工期の遅れが問題」
では、実際に新築物件に取り組んでいる投資家はどう見ているのか。
「3月初旬ごろ、新築アパート建築の見積もりを依頼しました。その時には価格への影響はなかったです」と語るのは、都内を中心に土地から新築アパートを多数手がけてきた不動産投資家、溝口晴康さん。
だが、4月に入って付き合いのある工務店にヒアリングをすると、「新型コロナウイルスの影響もあって、輸入木材が国内に入ってこなくなってきているし、木材の価格も上がりかけている」と言われたそうだ。
「その工務店は、すでに受注している案件について、約束した工期が守れないのではないかと気をもんでいました。新規受注案件についても、工費を値上げせざるを得ないかもしれないということです」
溝口さんが工務店に聞いたところによると、5月以降、1坪あたり1万5000円程度の値上げになる可能性があるといい、「物件のボリュームやエリアにもよりますが、総工費の3~4%程度、100万円前後は価格が上がるのは覚悟しなければならないかもしれませんね」と話す。
一方で、「価格よりも、痛いのは工期の遅れ」だと指摘。繁忙期に合わせた竣工を予定していたにもかかわらず、木材輸入が制限されることで完成が遅れれば、機会損失につながる懸念もある。
溝口さんは「こうした動きは一過性であり、一般の投資家への影響はそこまで大きくないのでは」と期待する。ただ、「この件も含めて、国産木材をもっと盛り上げていきたいという思いが強くなった」と話す溝口さん。現在は自ら国産木材の魅力を伝えるべく、栃木県での山林の購入を検討しているそうだ。
現在木造アパートの新築に向けて準備を進めていた木内卓明さんは3月上旬、建築を依頼しようと話を進めていた施工会社から「木材が入ってきづらくなっている。木材不足になるかもしれないので、早めに動いたほうがよい」と言われたと話す。
施工会社に聞いて、木材の価格高騰を知ったという木内さん。その施工会社に建築を依頼することを前提に話を進めていたため、「本来であれば、建築請負契約を結んでからプレカットの調達もするのでしょうが、今回は施工会社が早めに動いてくれました」といい、施工費の値上がりは免れたと話す。
ただ、この施工会社も、今後の新規案件に関しては施工費を上げざるを得ない状況に陥りそうだという。木内さんは「いつまでこの状況が続くかはわかりませんが、木材の輸入がこのまま制限されるのであれば、この先のアパート新築も難しくなるかもしれないですね」と語った。
■新築の契約時に気をつけるべきことは?
木材供給の先行きが不透明ないま、新築のアパートを検討する投資家は、契約時にどのような点に注意すべきなのだろうか。
まず、建築請負契約の後に木材などの価格高騰が生じた場合について、不動産に詳しい阿部栄一郎弁護士は「建築請負契約は、定めた条件のもとで建築の完成を約束するものです。したがって契約後に材料費の高騰が生じた場合、原則として上昇分の費用は施工者側が負担することになります」と話す。
コロナの影響が急速に広がったことで流通網がマヒし、資材が調達できなくなった、などといったケースでは不可抗力となる場合もあるが、今回のように他国の需給が変動したことによる価格の上昇は、「ある程度契約内容に織り込まれていると考えるのが妥当」だという。
一方、こうした状況下では、施工業者側が、材料費が上昇した場合は施工費に転嫁する(あるいはそれについて協議する)というような条項を盛り込む可能性もある。これについて発注者側は契約前に「受け入れられない」として削除してもらうことはもちろん可能だが、これによって契約に支障を来す可能性も考えられる。施工業者との関係性を重視するなら、そうした条項を受け入れる選択肢もあるだろう。
◇
昨年2月、新型コロナウイルスの影響でトイレやユニットバスなどの製品が品薄となり、納期が2倍になるなどの事態が生じた。数カ月後、品不足は解消に向かったものの、現場や依頼主には大きな混乱をもたらした。
現在のところ、投資家が今回の木材不足で大きな影響をうけたというケースは少ないようだが、今後の新築物件においては納期や価格に影響が生じる可能性が考えられる。最新の需給状況を把握しておくことが重要となる。
輸入木材が「かつてない価格高騰」、新築物件への影響は《楽待新聞》 - ニュース・コラム - Y!ファイナンス - Yahoo!ファイナンス
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