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Sunday, June 27, 2021

「ドラレコ」の売れ筋価格が急上昇 “高付加価値化”が止まらない根本的な理由 - ITmedia

 カー用品で久しぶりの大ヒット商品と言ってもいいのがドライブレコーダー(以下、ドラレコ)です。しかも、その売れ筋商品の価格が上がり、高付加価値化しています。

 ドラレコはいつ頃から自動車のアフターマーケットに登場したのか。なぜドラレコが売れるようになったのか。また、売れ筋価格が上がっているのはなぜか。流通小売り・サービス業のコンサルティングを約30年続けてきたムガマエ株式会社代表の岩崎剛幸がマーケティングの視点から分析していきます。

ドラレコ市場はなぜここまで伸びたのか(画像提供:ゲッティイメージズ)

カー用品市場で注目される存在

 自動車業界は日本を代表する産業の一つですが、アフターマーケットも非常に規模が大きいです。「中古車買い取り、オークション、小売りなどの中古車事業」「レンタカー、カーシェアリングなどの賃貸事業」「板金などの自動車整備事業」「自動車保険などの関連サービス事業」「ドラレコやタイヤ、オーディオなどの自動車部品・用品事業」の5つで構成されており、19兆円の市場規模があります(2020年時点)。カー用品市場は1兆1000億円市場と大きく、小売りではオートバックスやイエローハットなどの大手チェーンも存在しています。そのカー用品市場の中で注目されているのがドラレコです。

ドラレコが普及したきっかけ

 ドラレコの歴史はまだ浅く、15年ほどです。当初はタクシーや運送業など、主として事業用自動車に乗る運転手の安全運転意識を向上させ、普段の運転状況を記録することを目的に設置していました。自家用車で見かけることはほとんどありませんでした。

 2008年3月、あらゆる事業者がドラレコの必要性を認識する事件が起きました。東京都練馬区内でタクシーに乗っていた男がドライバーを刃物で脅し、売上金を奪って逃走。車内にはドラレコが搭載されており、これが犯人特定につながりました。

 しかし、ドラレコは「フロントガラスの視界が遮られる」とか「商品購入・取付費用がかかる」などの理由からすぐに普及はしませんでした。08年3月時点でのドラレコ普及率はタクシーが49%。一方で、自家用車はわずか0.1%(国土交通省調べ)という状況でした。

 その後、導入した事業者の事故率が著しく低下したり、一式5万円を超えていた導入コストが下がり始めたりしたことで、自家用車への普及率も少しずつ増えていきました。

 カー用大手のオートバックスが店頭でドラレコの取り扱いを始めたのは05年12月ごろ。実際に一般客からの問い合わせが増え始めてきたのは約6年前だそうです。

 そんなドラレコ市場拡大の契機となったのは、やはり一つの事故でした。12年4月に京都で発生した「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」です。19人が死傷したこの事故により、一般人の認知度が向上。自家用車に搭載する人が増え始めました。

 ドラレコ普及の決定打となったのは、17年6月に発生した「東名高速夫婦死亡事故」です。ニュースで何度も取り上げられ、その後もさまざまな「あおり運転問題」が世の中を騒がし、対策意識が急速に高まっていきました。その結果、17年7月からドラレコ販売台数が急増。ドラレコで自身の安全を確保するという新たな動きがでてきたのです。

 18年には一部メーカーで供給が間に合わず、売り切れが続出しました。その結果、専門に製造販売してきた企業だけでなく、一般家電メーカーもドラレコに参入。市場が一気に拡大し始めました。

 ドラレコは過去の痛ましい事故や事件がきっかけとなって広がってきた特殊な市場背景を持っている商品なのです。

シェア11%を超えると商品普及は一気に進む

 日本のドラレコ市場規模の推移を見ると、拡大の流れが一目瞭然です。

 16年度の出荷台数は日本全体で145万台だったのが、17年度に266万台へと83%増加。その後も30%以上の増加ペースが続き、20年度で450万台を超えました。16〜20年にかけての累計出荷台数は1720万台を超えています。

 全体でのドラレコ搭載率は54%。また、この2年間だけでも自家用車への搭載数は640万台を超えています。日本の自家用自動車保有台数6000万台のうち、シェアは11%程度(20年度は10.7%)にまで拡大したことが分かります。シェア11%を超えると商品普及は一気に進むと言われており、21年度はドラレコが一般客市場で大きく売れることが予想されます。

ドラレコ出荷台数の推移
ドラレコ出荷台数の推移

 BCNの調査によると、20年度はコロナの影響で移動制限がかかり、4〜6月に出荷ベースは落ちました。しかし、その後は再び出荷ペースは上昇。20年7月以降の店頭での売り上げが急増しています。

 ドラレコが20年7月から急増した理由は、同年6月末に改正道路交通法が施行され、あおり運転への罰則が厳しくなったためです。急ブレーキや車間距離不保持などにより他の車両の運転を妨害した場合、運転免許の取り消しと3年以下の懲役または50万円以下の罰金が課せられることになりました。また、著しい交通の危険を生じさせた場合には5年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

 こうした法改正を積極的に周知することで、20年7月以降の販売ペースが、前年比約3割増で推移した店もあります。

最新のドラレコ市場の変化

 今年になって売れ筋の価格帯は1台3万円台半ばになったと言います。1年前は1万6000〜9000円程度だったはずなのに、突然5割程度上がっているのです。なぜでしょうか。早速、筆者は都内のカー用品店や家電販売店のドラレコ売り場の視察に行ってきました。

都内カー用品店ドラレコ売り場

 それほど規模が大きくない店舗なのに、店頭付近では全体の1割程度のスペースを割いてドラレコ特設コーナーをつくっていました。総アイテム数は27。そのうち、本体価格が3万円を超えるアイテム数は10。実に3割以上が3万円台です。確かに、店頭価格は高くなっています。

 特に今、人気となっているのが、前方と後方を同時に撮影できるカメラ、全方位撮影できる360度カメラ、周囲が暗くてもナンバーや車の特徴を撮影できるフルハイビジョンカメラなどを備えた高付加価値のドラレコです。

都内カー用品店ドラレコ売り場

 前後2カメラ・360度撮影の商品になると5万2580円です。これに工賃が加わります。搭載する車種にもよりますが、前後カメラで1万9800円(BMW3シリーズの場合)ですから合計7万円強になります。それでも「品切れが続く商品もあります」(カー用品店スタッフ)とのこと。今や、カー用品店においては稼ぎ頭となっています。実際、オートバックスでは20年4月、5月とカーエレクトロニクス部門の売り上げは30%以上伸びており、特にドラレコとカーナビが好調です。

 店頭のスタッフは「基本的には交通事故の記録をとるためにつけられる方が多いのですが、24時間映像を撮り続けるカメラも人気がありますし、エンジンを切っている間も撮影できるドラレコもあります。振動があると、その瞬間の映像を残せるような商品です」と説明します。運転中の妨害だけでなく、盗難やイタズラ対策も考えた高付加価値商品が出てきているのです。

8割が「あおり運転を受けたと感じたことがある」

 パナソニックは「あおり運転とドライブレコーダーの使用状況に関する調査」を、日常的に運転している20〜60代の男女2000人を対象に実施しました。

 同調査によると、約8割が「あおり運転を受けたと感じたことがある」と回答しています。これは、思ったよりも多い数字です。

 また、「あおり運転被害」で思い当たるきっかけの約3割は「周りのクルマの流れよりスピードが遅かった」、約4割は「特に思い当たらない」とのこと。意味なく妨害行為を受けている現実もあるようです。さらに、運転中イライラした際にあおり運転につながりかねない行動をとる「あおり運転予備軍」は約3割、特に40代以上男性の6割超が「あおり運転」をしていた可能性ありと回答しています。自分自身が加害者にもなりかねない現状であり、決して他人ごとではないと感じさせられました。

 ちなみに、同調査対象者のドラレコ搭載率は4割超。今後の購入で重視する機能は「GPS機能」「前方後方同時録画機能」が上位でした。

成熟市場におけるマーケティングのヒント

 必要ないはずのものが、社会環境の変化で「必要不可欠な商品」に変化することがあります。

 当初、クルマを運転するだけでワクワク・ドキドキする人は多かったでしょう。そして、好きな場所に好きな時に移動できるクルマの存在は、ストレスを解消し、最も気分を高揚させる存在だったはずです。

 しかし、世の中はストレス社会となり、「できるだけ速く移動したい」とか「自分たちだけが楽しければいい」と考える人が増えてきたように感じます。日々のストレスを運転中も引きずってしまい、運転に支障をきたすほどのイライラを感じる場面が増えてきました。

 あおり運転問題はその代表的なものの一つです。結果として、自身の安全を守るための商品やサービスは、必要不可欠な存在になります。

 今はこのような「安心・安全を確保する」ための商品はさまざまなカテゴリーで増加しています。コロナ対策のマスクや除菌商品、ランドセルの防犯ブザー、防災用品、ウイルスソフトやセキュリティサービスなどが挙げられます。

 保険会社はドラレコを低価格で貸し付けるドラレコ特約付き保険などを出し始めました。三菱自動車はリース商品「ウルトラマイカープラン」で、任意保険や通信機能付きドライブレコーダーを標準で付帯し始めました。トヨタ自動車は6月に発売した「ハリアー」に、前後2方向の録画機能を内蔵したデジタルルームミラーを装備しました。

 新たなモビリティとしての自動車の価値が見直されつつある今、安心・安全を守る自動車アフターマーケットは拡大していくことでしょう。世の中が変化すると、成熟市場にも新たな変化を引き起こします。成熟したからと言ってそれは市場の終わりではありません。そこからどんな新しい課題をつくれるか。これからの日本の市場に必要な視点をドラレコは教えてくれます。

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