ミドルレンジのスマートフォンを相次いでリリースしていたモトローラだが、SIMフリースマートフォン市場に参入した直後と比べ、ラインアップが“売れ筋”に集中していたきらいがある。ミドルレンジのgシリーズのラインアップが厚くなっている一方で、フラグシップモデルはハイエンドモデルの日本発売が見送られてきたといえる。
2020年7月に同社日本法人に松原丈太社長が就任して以降、そんな状況が徐々に変わり始めている。3月には、5Gに対応したフォルダブルスマートフォンの「motorola razr 5G」を発売。続く5月には、ミドルレンジのgシリーズながら、ハイエンドモデル並みのパフォーマンスを誇る「moto g100」を投入した。いずれも、従来のモトローラ製品に比べると価格は高いものの、性能や技術力の高さが目を引く端末だ。
もちろん、ミドルレンジのgシリーズも、3月に「moto g10」や「moto g30」を発売したが、より高価格帯を攻めるようになったのも事実だ。では、なぜモトローラがフラグシップモデルを日本に投入するようになったのか。松原氏に、同社の戦略を伺った。
2万円台〜3万円台のモデルではコミットメントが果たせない
―― 直近では、moto g100が発売になっています。従来のgシリーズと比べるとパフォーマンスが高く、どちらかといえばハイエンドと呼べる端末ですが、この端末を投入した狙いを教えてください。
松原氏 moto g100は、プロセッサやカメラが中レベルからハイレベルに入る端末です。昨年(2020年)から、モトローラとして日本にガッツリ力を入れていく中で、こういった価格帯のものを投入することは考えていました。今までは、比較的ビジネスモデルの見通しが立てやすい3万円台や2万円台のところをやってきましたが、それだけでは、モトローラの日本に対するコミットメント(約束)が果たせません。こんなスペックのものが、こんな価格で出せるという驚きを提供したい気持ちがありました。
―― 確かに、moto g100はスペックが高い割に、価格は抑えられています(MOTO STOREで税込み5万8800円)。その理由はどこにあるのでしょうか。
松原氏 皆さんがお聞きになりたいことかもしれませんが、半導体の供給不足や部材費の高騰があり、弊社に限らず、苦労されているところだと思います。そんな中で、社内で怒られながらも、この価格で出すことができました。損得だけで考えているところから脱却したく、携帯電話業界に「おっ」と思ってもらいたかった。何か新しいことが起きそうだと感じてもらえたらと思っています。若干無理をしたところはありましたが、(値付けは)頑張りました。
プレミアムのカテゴリーには特別な名前を付ける
―― moto g100の新機能の1つに、「Ready For」があります。面白いと思う反面、こういったいわゆるデスクトップモード的な機能は、サムスンやファーウェイもやっている中、あまり普及していない印象も受けます。
松原氏 Ready Forは、本社社長のセルジオ・ブニアック肝いりの機能です。手のひらの上のディスプレイという枠から離れて、いろいろなものをインテグレーションしています。今はさまざまな方がトライしている段階で、まだ普及が見えている感じではありませんが、それにめげず、しぶとくやっていくつもりです。今後については、ミッドレンジより下は未定ですが、ミドルレンジより高いモデルでは、こういった機能をサポートしていく方向になっています。
ユーザーの皆さんがユースケースを想像できるようにご提案していないと普及が難しい面があるのは承知しているので、反応を見つつ、コメントをいただきながら機能をさらに向上させていければと思います。モトローラは、レノボ傘下のグループ企業でもあるので、いろいろなデバイスとのインテグレーションにも取り組んでみたら面白いのではないでしょうか。
―― g100の上にあるプレミアムモデルとして、razr 5Gも投入しました。以前は、こういったモデルには「z」がついていたと思いますが、ここは変更になったのでしょうか。
松原氏 ネーミングのルールが変わり、再スタートを切っています。そのため、zの型番を付けた端末は今のところありません。プレミアムのカテゴリーは、特別な名前を付け、独自の世界観を打ち出す端末です。
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海外モデルとのタイムラグは徐々に短くしていく
―― g100の上にはなりますが、razr 5GのプロセッサはSnapdragon 765Gで、パフォーマンスが逆転しているような印象も受けます。これについてはいかがでしょうか。
松原氏 razr 5Gは、「CPUがどう」ということを飛び抜けた端末です。800番台のチップを使うこともできましたが、ユースケースやバッテリーの持ちなど、トータルで考えたときに、一番いいセットとしてシカゴのエンジニアがSnapdragon 765Gを選択しています。これは車の世界でもそうですが、エンジンが強力で高い車もあれば、そうでなくても高い車もあります。razr 5Gは、そういったスペック競争から一歩飛び出し、次の価値観をお見せすることにトライした端末です。
―― 発売後の実績はいかがでしたか。
松原氏 もともと数を追う製品ではありません。モトローラの考えや世界観を、製品の形で見ていただけるシンボルのような役割だと考えていました。実績はどうかというと、弊社が考えていた当初のプランより順調です。ご存じの通り、オープンモデルとしてSIMフリーで出した分と、ソフトバンクに納品した分の2つがありますが、両方とも反響が大きく、数的にも思っていた通りか、少し上振れする形で出ています。
―― 一方で、海外モデルとのタイムラグが少々あったようにも見えました。
松原氏 razr 5Gは特殊な背景もあり、確かに少しタイムラグがありました。ただ、一般的なタイムラグに関しては、以前より短くなっています。以前だと3カ月、4カ月、中には5カ月というものもありましたが、これは徐々に短くしていく方向です。日本特有の認証など、避けられないプロセスはありますが、あと少し短縮することは可能だと考えています。
―― 国内向けに対応バンドを合わせたり、認証を取ったりはあると思いますが、一歩進めて、おサイフケータイなどのローカライズをするお考えはありますか。
松原氏 いろいろなパターンが考えられます。特別な端末を出すこともあれば、グローバルの端末に日本向けのフィーチャー(機能)を入れ、スクラッチから日本のデザインを入れるということも考えられます。全ての可能性は、いつも検討しています。求められるスペックや価格があるので、そこにミートするかどうかの観点で、可能性を見極めながら製品企画をしていくことになります。
―― 障壁もありそうですが。
松原氏 障壁はゼロではありません。インパクトはありますが、それを踏まえた上で、欲しているお客さまが多いとなれば、あえて踏み込むことは考えられます。
キャリアの新料金プランで想定と違う動きがあった
―― razr 5Gは、キャリアモデルとしてソフトバンクからも発売されました。久々のキャリアモデルですが、この比率を増やしていくお考えはありますか。
松原氏 もちろんありますし、キャリアともいろいろな議論をしています。razr 5Gのような価格レンジの端末は象徴的ですが、あの価格帯になると、CPUに思いっきり振ってみたり、カメラをよくしたりと、自由度が高くなります。伝えたいことに沿ったモデルが出せるということです。低価格だと、そういった自由度が低くなりますが、われわれとしては、業界に一石を投じられるものを出していきたい。キャリアにも、こういった商品が考えられるといった提案は、積極的にやっていきます。
―― 3月には大手3キャリアのオンライン専用プラン、ブランドがスタートしました。ahamoを除き、基本的には端末を取り扱っていませんが、SIMフリーについて、何かポジティブな影響はありましたか。
松原氏 その話が出る前から、月々の料金プランと端末価格を消費者に対して明確に分かれた形で見せていく流れがありました。アグレッシブなプランが出てきたことで、その流れが加速している実感はあります。消費者に認識されていなかったスマホの価格が、現実の数字として見やすくなっています。ここが、端末メーカーとしての競争のしどころです。特徴を持った端末を出したり、ユースケースを考えたりしてご提案していけます。
―― 全体を通した販売状況はいかがでしょうか。SIMフリー市場に参入後は、継続的に成長していたと思います。
松原氏 おかげさまでラインアップが増えていますし、チームも拡充しています。それに比例して、出荷台数も増えています。ただし、今年(2021年)の春商戦は、各キャリアから攻めた料金プランが出た関係もあり、想定と違う動きはありました。台数的に、本来このタイミングで出るというものにタイムラグがあったということです。コンシューマーの皆さまも、いろいろなプランが出ていたので、それを決めてから購入に至っていたのではないでしょうか。そういう影響は、メーカー側からもみて取れました。
―― 簡単に言うと、3月のオンライン専用プランや、4月のMVNOの料金改定を待ってから購入したので、ボリュームが出るタイミングが後ろにズレたということでしょうか。
松原氏 大体そういった流れで、少しずつ後ろにズレています。
―― 前年度と比べていかがでしょうか。
松原氏 そこは開示できませんが、先の四半期で想定外の動きがありました。ただし、ペース的には調子が戻ってきているので、プラン通りになりそうです。
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2021年度は5G端末が市場に普及していく
―― 社長就任後のインタビューで、2020年度のラインアップは前年比で2倍に増やすというお話がありましたが、このペースは大体同じでしょうか。
松原氏 2021年度は、5G端末があらゆる市場に普及していくタイミングになります。そういった意味で、まずハイエンドモデルやプレミアムモデルで5Gの端末を出しました。今年後半からは、今まで出してきた4G端末のお客さまにも、5Gを要求されるフェーズに入っていきます。そういったところを見極めながら、端末を投入していきたいと思います。総機種数ではなく、柔軟に、ニーズに合ったものをタイムリーに投入していきます。
―― ということは、やはり5G比率は高くなるのでしょうか。
松原氏 ネットワークの普及度合いや、体感的に4Gより5Gの方がユーザーメリットを感じられるかどうかもあり、いろいろな要素が複雑に絡み合ってきます。一概に5Gだけが普及すると言うことはできません。注意深く市場を見ながら、必要かどうかを考えていければと思います。
―― 逆に、5G非対応なら価格面で攻めることもできたりするのでしょうか。
松原氏 一般的に、まだ4G端末の方がお求めいやすいという事実はあります。さまざまなお考えのユーザーがいますので、もうしばらくの間は、両方が併存する形になります。特にSIMフリーマーケットは、ですね。
―― razr 5Gやmoto g100が目立っていますが、ミドルレンジは今後どうされていくのでしょうか。キャリア向けもあるでしょうか。
松原氏 モトローラは、オープンにいろいろなキャリアとお話をしています。キャリア側が求めるプライスレンジも、徐々に変わってきています。そういった中で、世界のトレンドを踏まえながら、モトローラの考えや提案を、創造的にディスカッションしていければと考えています。
―― razr 5Gやg100を出し、ラインアップを拡充していることからも日本市場に注力していることは分かりますが、日本をここまで重視している理由を教えてください。
松原氏 日本の消費者の傾向として、テクノロジーに理解があり、品質に対してもきちんと見て評価していだける側面があります。ここでできれば、どの市場でもできるという気持ちはありますね。メーカーにはマゾ気質の人が多いので(笑)、チャレンジ精神でやっているところもあると思います。
取材を終えて:ローカライズをどこまで強化できるか
ミドルレンジモデルは、確かに手に取りやすい一方で、かけられるコストが限られるため、メーカーごとの差別化の難度は高くなる。制約ゆえに、メーカーとしての色が出しづらくなるからだ。一方で、特にSIMフリー市場では、ハイエンドモデルのボリュームは小さく、簡単に投入することはできない。モトローラがラインアップを拡充している背景には、gシリーズをはじめとしたミドルレンジモデルの販売が順調に伸びていることがありそうだ。
razr 5Gやg100のようなハイエンドモデルを投入できれば、メーカーとしてのブランド力もつけられる。ミドルレンジのボリュームと、ハイエンドモデルのブランド力は、いわば車の両輪。松原氏就任以降、その構えが急速に整いつつあることがうかがえる。ただし、XiaomiやOPPOなどの新規参入メーカーと比べ、ローカライズが遅れていることは否めない。この点を、どう解決していくのかは今後の課題と言えそうだ。
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