大量の二酸化炭素(CO2)を排出する鉄鋼や化学業界が危機感を強めている。「脱炭素」に向けた原材料見直しや新たな技術開発で製造コストが増えても、製品への価格転嫁が進まないことが大きい。消費者の低価格志向が背景にあり、国全体で負担を分かち合うべきだとの声が上がっている。
鉄鋼業界では、豪州産の鉄鉱石の価格が昨秋から約2倍に跳ね上がり、原材料費が「過去最高水準」(大手)となっている。中国の鉄鋼各社が地元政府に温暖化対策を義務づけられ、鉄分を多く含み効率的に生産できる鉄鉱石を「爆買い」していることなどが影響している。
鉄鋼業界は国内のCO2排出量の14%を占め、脱炭素に向け新しい生産方法への切り替えも求められる。最大手の日本製鉄は「研究開発に5000億円、設備投資に4兆~5兆円」が必要になるとの予測を示しており、今後の経営の重荷になるのは確実だ。
一方で、国内の鋼材価格はこうした負担を思うように反映できていない。関係者によると、家電や産業機械などに幅広く利用される薄板状の鋼材は、米国や東南アジアなどの市況価格が昨秋からの半年で約2倍となっているが、日本では3割程度の上昇にとどまる。自動車大手との個別契約によって供給する高級鋼材では、さらに値上げが浸透していない。
日本では、自動車大手が鉄鋼各社よりも強い価格交渉力を持っているとされる。鉄鋼大手は「中国の鉄鋼メーカーが技術力をつけ、日本の自動車大手は調達先の選択肢が増えた。パワーバランスが崩れ、交渉の場でも優勢に立たれてしまった」と明かす。
格付け会社S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの石川慶氏は「自動車メーカー向けの鋼材価格が韓国などと比べ低いため、日本の鉄鋼大手の利益水準は見劣りしている」と指摘する。日本製鉄の橋本英二社長は「海外と比べ理不尽に安い価格であれば、将来の安定供給に責任を持てなくなる」と語気を強める。
国内排出量の5%を占め、自動車部材やペットボトル原料などを生産する化学業界も同様の悩みを抱える。
住友化学の岩田圭一社長は、CO2の排出抑制を求められる一方で、「(対応に必要な)価格転嫁に応じるような優しい取引先は少ない」と嘆く。
脱炭素のための技術開発が求められるのは、自動車や電機などのメーカーも同じだ。コロナ禍が長引き景気の先行きが不透明ななか、消費者離れを招きかねない値上げには及び腰で、鉄鋼や化学メーカーからの値上げ要請には厳しい姿勢を崩さない。
岩田氏は「社会全体でコストを分かち合うことが重要だ」と訴え、政府が掲げるカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)の実現には、国を挙げて取り組む必要があると強調している。
脱炭素 鉄鋼・化学に危機感…コスト増 価格転嫁困難 : 経済 : ニュース - 読売新聞
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