ポストコロナと原油価格の高騰…産油国側の焦りと大国の思惑【報道1930】
市場はすでにポストコロナに動いている。オミクロン株の急拡大で株価は一時的に下がっているが、実は急拡大と弱毒化でコロナの終焉ではないかという見方もあり、今こそ“買い”だという声もある。専門家たちがそろって「今しばらく様子を見ないとわからない」というのには、これ以外にも原油価格の動向もからんでいるからだ。
株と同時に世界経済の中心となっている原油の価格は、高騰したまま。2020年初頭、新型コロナウイルスの世界的流行を受けて一度は暴落したものの、その後高騰を続け、このところ1バレル80ドル前後で高止まりしている。原油価格は様々な物の価格に反映するため、各国でインフレが懸念される。いったいなぜ、その原油価格は下がらないのか?
産油国側は、“増産は値崩れを起こし、供給過剰を招くなどのリスクがある”というが、それだけではないようだ。有識者に聞いた。
内閣官房参与・宮家邦彦氏
「(1973年のオイルショックで原油価格が高騰したこともあるが)当時は、サウジアラビアの人口が600万人だったが、今は2000万人超えています。でも生産量は変わっていない。(原油価格が多少変化しても)収入は変わってないのに、(人口が)3倍以上。つまり1人あたりのGDPは3分の1になった。だから値段を上げざるを得ない」
元々サウジアラビアは原油の損益分岐点が高く、1バレル約76ドル以上でないと黒字にはならないという。世界第2位の産油国であるサウジアラビアが値上げすれば、OPEC(石油輸出国機構)は足並みをそろえざるを得ない。
自民党・西村康稔 前経済再生相
「まさにヨーロッパを中心にESG(環境・社会・ガバナンス)投資、再生可能エネルギー、脱炭素の方向・・・。やがて石油を使わなくなる。(産油国は)今、稼いでおかないといけない。いろんな投資をしていくためにも、この高い価格を維持しなければならない」
更に西村氏は、原油価格の高止まりにはアメリカの事情も絡むという。
これまで原油が上がれば、シェール(オイル、ガス)の生産を増やして、エネルギーの安定化を図った。しかし、バイデン政権は、環境重視の左派に配慮してシェールの生産を抑えている。加えて、アメリカ経済の石油投資への先ぼそりが、原油の高止まりを許す要因だという。その象徴として石油大手・エクソンがファンドから3人の役員を迎え、今後の投資を石油以外にシフトした事をあげた。
原油価格の今後について経済の専門家に聞いた。
経済評論家・加谷珪一氏
「原油が上がると他の資材も上がる。需要過多で食料品から何から全ての価格が上がる。いわゆる“コストプッシュインフレ”で、これ(原油価格)は半永久的に下がらない。(中略)、いずれは石油の需要が減る。(だから産油国は)収益を最大化したいから、極端に下げるという選択肢はほとんどなくて、じわじわと上がっていく」
■脱炭素は、米中の弱体化が狙い?ヨーロッパはドル覇権を壊したい
原油価格が下がらないひとつの要因として将来の“脱炭素化社会”が挙げられたが、これには大国の政治的思惑が見え隠れするという。現在EU諸国を中心に進められている世界の脱炭素化の流れだが、これには地球温暖化対策という環境面だけではないという見方もある。
宮家氏は、欧州が温暖化対策を進める狙いは、米中の力を弱体化させることだという。
「陰謀論は嫌いだ」と前置きした上で宮家氏は語る。
内閣官房参与・宮家邦彦氏
「中国とアメリカが対立する(形で世界経済が動く)中で、(欧州が)影響力なり発言力を維持するには、脱炭素という考え方は国際政治的に利用しやすい。(米中はじめインドも日本も化石燃料をやめられない中で、脱炭素なら)ヨーロッパがいい立場になれる。(中略)欧州の人は頭がいい。力がなくても知恵を出して、自分たちはたたかれないようなアジェンダを作って、自分たち主導でアメリカをたたき、中国をたたく。(中略)中国もわかっている。だから習近平さんは、COP26に来なかった。行ったら袋叩きになる・・・」
また経済評論家の加谷氏は、欧州が脱炭素に積極的なのは、石油を中心としたドル覇権を壊したいという狙いがあるのではと指摘する。
経済評論家・加谷珪一氏
「(石油取引をはじめ)全世界でドルが使われているのは、アメリカにとって凄いアドバンテージなんです。例えば、日本とロシアで通貨を交換するとき、一度ドルに換えてからルーブルに換えた方が安い。(世界でお金が動くとき)必ずアメリカの銀行を通る。アメリカがどこかの送金を停止しようと思えば、自分の国の銀行にやめろと言うだけで国際送金を止められるんですね。だからある種の覇権を持っているというのが事実。(中略)ユーロを形成した欧州勢からみれば、そのシェアを抑えたいという意向が働くのは当然」
地球を救うための脱炭素化が生み出した産油国の焦りと原油価格の高止まり。そしてその地球温暖化阻止の本音はヨーロッパによる大国への巻き返しなのか?ドルが基軸通貨となっていることがアメリカの力の源泉ともいわれる中で、繰り広げられるヨーロッパと中東、米中の覇権争いが、いま原油価格の高止まりとして表に出ている現象だという。
宮家氏は、この議論をこう結んだ。
「基軸通貨だからジャブジャブ使える。刷ればいいんだから。こんな美味しいシステムはない。(私がアメリカだったら)何があってもこのシステムだけは守る」
(BS-TBS『報道1930』12月2日放送より)
ポストコロナと原油価格の高騰…産油国側の焦りと大国の思惑【報道1930】 - TBS News
Read More
No comments:
Post a Comment