<格差の果てに 韓国大統領選2022>㊤
◆3億ウォンが1年で5億に高騰
ソウル近郊に住む金載得さん(43)が株投資を始めたのは2006年。韓国の株価指数が上昇を続け、メディアがしきりに報道していたのに触発された。
当時契約社員だったガス会社の月給は200万ウォン(約20万円)ほど。大企業が経済をけん引する韓国で、中小企業の賃金は伸び悩んでおり、独身の金さんは「稼がないと女性に振り向いてもらえない」からだ。
株の短期売買にのめり込むうちに負債が膨らみ、今は会社勤めをやめて自宅のパソコンで株価を追う日々。「自分には勉強が足りなかった」と、高額な受講料を払ってインターネット講座で投資術の指南を受ける。
昨年には新築マンションを5億ウォン(約4800万円)で購入した。1年前に下見した時点では3億ウォンだったのが、みるみる高騰。不動産に投資する考えはなかったが「今買わないと一生家を持てなくなる」。銀行や信用カード会社の融資、親の資金などをかき集めて購入費に充てた。
若者が住宅を購入するため「魂まで(借金を)かき集める」を意味する「ヨンクル」が流行語になるなか、それを地で行った金さん。住宅ローンを合わせた負債は約3億5000万ウォンとなり、「株で失った金でもっと早く家を買っていたら、差益でもうかったかも」。後悔しつつ、月々の返済と生活費を稼ぐため夜間に物流センターでアルバイトをしている。
◆文在寅政権中にマンション価格2倍に
17年に文在寅政権が発足してから、首都圏のマンション価格はおよそ2倍になった。金さんのように不動産の急騰に振り回された人もいれば、逆に資産を増やした人もいる。
19年にソウル市内の高級住宅街・江南にある借り主が入居中の中古マンションを購入した30代の女性会社員。名門高校や塾が集中するため「子どもが大きくなったら家族で入居できるように」と押さえた物件だが、この3年で数億ウォンの含み益を得たという。
韓国ではマンションを借りる際に高額の保証金を預ける制度がある。転売の際には保証金の返還義務も引き継がれるため、買い手が用意するお金は購入価格(このケースでは15億ウォン)の2割から半分ほどで済む。マンション価格はその後20億ウォン台後半まで上がったため、銀行からの借り入れ分を差し引いても多額の含み益が残る仕組みだ。
この仕組みを利用した不動産投機が問題となり、政府も複数の住宅所有者への課税強化、融資制限など多くの対策を打ち出した。しかし不動産高騰は止まらずむしろ混乱を招き、若者らが文政権を見限る大きな要因になった。
大統領選の主要候補は、有権者の税負担を減らすため、不動産を巡る規制の一部を再び緩和する方針を打ち出すが、前出の女性は「不動産市場の安定にはつながらず、ただの票目当て」と冷ややかだ。候補らは若者向けの住宅供給を増やす公約も掲げるが、実際の建設には時間がかかるため、根本的な解決策になるかは見通せない。(ソウルで、木下大資、写真も)
急速な経済成長を遂げた韓国では、貧富の格差が広がり、不動産高騰や少子化などのひずみが生じている。3月9日投開票の大統領選の行方を左右する社会の底流を2回に分けて追う。
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