世界的な原材料高騰や円安進行の影響で食料品などの値上げを打ち出す企業が相次ぐ中、あえて価格を据え置いてきた大手企業もある。規模の大きさや工夫などでしのぎ、値上げを回避してきたが、コストは増大する一方で、限界が見えてきている。(並木智子)
◆あえての価格据え置き
「値上げには苦い経験がある。だからなんとか価格は死守したい」
作業服大手の「ワークマン」(群馬県)の広報担当者はそう明かす。2014〜15年、円安の影響で、980円の作業服ズボンを1280円にするなど複数の商品を値上げしたところ、翌月の商品の売り上げがそれぞれ約3割減った。
消耗品である作業服などは顧客の来店頻度も高く、まとめ買いをすることが多いため、消費者は値上がりの印象をより強く受けたとみられる。その後価格を戻しても、売り上げが戻るまでに、半年以上かかった。
このため、各社が値上げに踏み切り始めた今年2月、同社はあえてプライベートブランド(PB)の価格の据え置きを宣言。独自開発の生地を他の製品にも応用し、発注量を増やすなどコスト削減への工夫を重ねた。
だが、急速に進む円安が海外生産のコストを押し上げる。どうにか価格を維持しようと模索するが、来年春夏商品の価格を維持できるかは不透明だ。
◆値上げ受け入れがたい消費者
洋菓子販売などを手掛ける「シャトレーゼ」(山梨県)も5月、「スペシャル苺ショート」(税込み324円)など定番商品の価格維持を表明。原材料の小麦の価格は2割、油脂は5割上昇し、収益を圧迫するが、値上げは「お客さんの負担になる」と慎重だ。
実際に消費者は値上げを受け入れづらくなっている。みずほリサーチ&テクノロジーズが6月に発表した、家計の「値上げ許容度DI」によると、原油価格の高騰が本格化した21年度後半以降に低下。
値上げを「好ましいことだ」と回答した割合から「困ったことだ」と回答した割合を引いた6月の指数は、過去の平均より0.5ポイント低く、節約志向が強まっていることをうかがわせた。
◆消費者の賃金上げて緩和
価格維持の方針転換を迫られる企業も出てきている。流通大手イオンは、昨年9月以降、PB「トップバリュ」の食料品など約5000品で価格維持を表明したが、その後円安が加速。今年7月にはマヨネーズなど3品目を値上げした。
第一生命経済研究所の熊野英生氏は、値上げの要因が原材料費や原油などの上昇のため「企業でできるコスト削減の余地は小さく、価格維持は難しくなってきている」とみる。
みずほリサーチ&テクノロジーズの酒井才介氏は、値上げ後も企業が販売量を落とさないためには「消費者の賃金を上げ、家計の購買力を上げることが重要だ」と話している。
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