コロナ禍で中止や規模縮小が続いていたスポーツ、音楽などのイベントが本格再開されたのに伴い、チケットの不正転売が再び広がっている。インターネットによる転売実態を把握するのは難しく、専門家は法改正の必要性を指摘している。(米田怜央)
◆1枚「1万3000円」→「39万円」
「とても買えない」。神奈川県内の女性会社員(30)はスマートフォンに表示された転売チケット価格を見て肩を落とした。10万円。正価の10倍を超えていた。
昨冬、ジャニーズグループのコンサートに行こうと複数の公演に申し込んだが落選。諦められず仲介サイトをのぞくと、数万〜10万円ほどの出品が続いていた。「転売のせいで、本当に応援したい人が買えない」。交流サイト(SNS)を通じて定価で販売するという人物とやりとりしたが、費用を振り込んだら連絡が途絶えた。何度も問い合わせて返金だけは受けたが、チケットは手に入らなかった。
転売トラブルが相次ぐ中、神奈川県警は7月、ジャニーズグループが出演する公演のチケット1枚(販売価格1万3000円)を39万円で売るなど不正転売を繰り返したとして、入場券不正転売禁止法違反の疑いで、福岡市の無職の男(25)を逮捕した。雇った複数の「買い子」が公式サイトから購入したチケットを仲介サイトで転売し、2019年以降、約1億6000万円を売り上げた疑いがある。
◆「監視が追いついていない」興行主も限界
同年に施行された同法は、興行主の許可を得ずに業として販売価格を超える価格で転売することを禁じている。「業として」は主に反復性や継続性で判断される。ただ、捜査関係者は「サイト上で複数のアカウントを使われると、出品者の特定は容易ではない」と明かす。警察庁の統計によると、21年の同法違反による摘発は全国で10人にとどまる。
興行主の対応にも限界がある。劇団四季を運営する四季(横浜市青葉区)は、自社の出品サービスを導入。仲介サイトを監視し、転売が確認できたチケットを無効とするが、「全体量が把握できず監視が追いついていない可能性がある」と明かす。
大手仲介サイト「チケット流通センター」を運営するウェイブダッシュ(東京都千代田区)の担当者は「不適切利用防止のための措置をとっている」と説明する一方で、詳細は伏せた。
この問題に詳しい福井健策弁護士は「仲介サイトを使えば売れ残るリスクが少なく、誰でも気軽にチケットを高額で転売できる。運営会社は不正なアカウントの出品禁止や通報などの対応を積極的にとるべきだ」と指摘。「チケットが高額で売買されれば、ファンは他のグッズやチケットに使えたはずの資金がなくなる。興行主にとってもマイナス。1回の不正転売でも摘発できるように法改正を検討する必要がある」と提案した。
相談件数と入場券不正転売禁止法 国民生活センターと全国の消費生活センターに寄せられたインターネットでのチケット転売に関する相談件数は2019年度、記録が残る13年度以降で最多の4692件に上った。新型コロナの感染が拡大した20年度には322件に激減したが、22年度は1689件にまで戻った。入場券不正転売禁止法は違反した場合に1年以下の懲役か100万円以下の罰金、もしくはその両方を科すと定める。
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