新型コロナウイルスの感染拡大に端を発した、原材料価格の高騰や円安といったさまざまな要因で多くの企業が値上げを迫られた近年。企業がより良いプライシングを実現していくためには、値上げをして終わりではなく、値上げ後の価格を継続的に検証していくことが求められます。そこで今回は企業からよく寄せられる質問の1つである、値上げ後の検証方法に関する企業の悩みに回答します。
企業の悩み
価格改定で値上げした際に、その値上げが良かったかどうかの検証はどのようにすればよいでしょうか? 料金変更後の解約の増加要因にどれだけ料金改定の影響があったのか正確に把握することが難しいと感じています。
(写真=Trickster*/stock.adobe.com)
検証とはそもそも「仮説を証明すること」という意味でもあり、プライシングにおいても同様です。すなわち大前提として、仮説が必要になります。
例えば売り上げ増を目的とした値上げであれば、値上げ後の売り上げの変動をあらかじめ想定しておくなど、目的に照らし合わせた仮説を立てておくことが重要です。そうすれば、予測値と実績値の差を見比べることで値上げの検証が可能となります。
この場合に最も重要なのは、仮説の精度です。根拠に乏しい乱暴な仮説を立てて価格を変更したとしても、その後の検証はあまり意味を成しません。
顧客は価格がいくらなら支払っていいと思っているのか。商品やサービスの適正価格はいくらなのか。これらを、科学的根拠を基に突き止め、確からしい仮説を基に実際に価格を変更して初めて、意義のある検証ができます。そして検証結果を基に、より正確な顧客の支払い意欲を捉え直すことができれば、次のプライシングに生かすことができます。
このようにより良いプライシングを目指すには、精度の高い仮説検証を繰り返すことが重要です。
顧客が商品やサービスにどの程度の価値を感じていて、どのくらいの支払い意欲があるのかを把握するにはいくつかの方法があります。例えば、ターゲットに対して商品を買いたいと思う金額を直接的に聞く方法があり、これを「直接質問法」と呼びます。
この方法は簡単に実行できる一方、取得する情報にバイアスが比較的かかりやすいというデメリットがあります。これは調査の対象者が、価格変更に関わる調査であることを認識してしまい、安めの金額を回答する傾向が出てしまうケースがあるからです。
そうした欠点を埋める分析手法として「PSM分析」という手法があります。PSM分析は1976年にオランダの経済学者、ファン・ウェステンドルプ(Van Westendorp)氏によって開発されました。適切だと考えられる価格を算出するための調査方法です。開発者の名を取って「Van Westendorpモデル」ともいわれています。
回答者のバイアスを最小限にとどめられるよう、「高いと感じ始める」「安いと感じ始める」「これ以上高いと検討に乗らない」「これ以上安いと品質や効果に不安を感じる」といった4つの間接的な質問を投げかけ、購買可能な金額を点ではなく、幅で把握します。この結果を分析すれば顧客の支払い意欲を把握できるだけでなく、売り上げや顧客数を最大化できると考えられる価格を試算することも可能となります。
価格改定の検証を実現するためには、勘や経験に頼るのではなく、こうしてあらかじめ価格をシミュレーションして根拠のある仮説を立てておくことが重要です。
これはなにも値上げに限った話ではありません。値下げにおいても同じく顧客の支払い意欲を把握できているかどうかは重要なポイントになります。
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価格改定の影響をどのように検証すればよいのか分かりません - 日経ビジネスオンライン
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