「価格(Price)」と「プライシング(Pricing)」は何が違うのか。この違いを知ると、プライシングの重要性が分かりやすい。価格は品詞で言えば名詞であり、プライシングは動詞に当たる。つまり、プライシングとは、商品・サービスの価値を見極め、価値を価格に転嫁し、狙った利益に転換する業務プロセス全体を指す言葉なのだ。連載第1回では、このプライシングの重要性を解き明かす。
第1回となる本稿では、プライシングの重要性と、そのポイントについて解説したい。
利益に最も貢献する価格の改善
プライシングがなぜ重要であるかは、価格が持つインパクトの大きさを見れば一目瞭然だ。マーケティング界隈(かいわい)ではよく1%効果と呼ばれているが、企業のコスト構造を分析すると、価格を1%改善できれば利益は10%以上改善するといわれる。価格の改善に次いで、変動費、販売数量、固定費を1%改善する順に利益に貢献する。
実際に、トヨタ自動車の2020年度、21年度の財務諸表を基に1%の改善効果を計算してみた結果が以下の図表である。
価格を1%改善すると10%、変動費を1%改善すると8%、販売数量を1%改善すると2%、固定費を1%改善すると1%の利益アップに貢献している。価格の改善効果が最も大きいことが分かる。
多くの日本企業はコストダウンや売り上げのボリュームを増やすことに目を向けがちである。シェア拡大のために価格を下げることまでしている。しかし、最も優先すべきは価格であり、価格を上げる余地がないかを常に考えていかなければならない。
少し別の角度からも、価格を上げること、下げることの影響を捉えたい。まず値下げからである。
ここでは説明をシンプルにするために、値下げ前の商品の単価を1000円、利益を300円、月間の販売数量を1000個として計算する。すると月間の利益は300円×1000個=30万円となる。
では、商品を200円値下げ(2割引き)したらどうなるだろうか。商品の単価が1000円-200円=800円となり、利益は300円-200円=100円に下がる。仮に値下げ前の月間の利益であった30万円を達成しようとした場合、必要な月間の販売数量は、30万円÷100円=3000個となる。
つまり2割引きすると、値下げ前の3倍もの数量を売らなければ、同額の利益を維持できなくなるのだ。
どうだろうか。私の感覚では2割引きをしても売り上げはせいぜい1.2倍になる程度だろう。良くても1.5倍ではないか。とても3倍には届かない。仮に売り上げを3倍にしようとすれば、追加で広告や販促などの販売費がかかる。それによって利益はますます下がるため、値下げ前の水準には到底届かない。
これが「値下げは悪」と呼ばれる所以(ゆえん)である。足元の減収を補うための値下げは、多少は販売数量を上げる効果はあっても、利益アップにつなげるのは至難の業だ。
次に値上げである。
ここでも説明をシンプルにするために、値上げ前の商品の単価を1000円、利益を300円、月間の販売数量を1000個として計算する。月間の利益は上記同様、30万円となる。
では、商品を300円値上げ(3割増し)したらどうなるだろうか。商品の単価が1000円+300円=1300円となり、利益は300円+300円=600円に上がる。仮に値上げ前の月間の利益であった30万円を達成しようとした場合、必要な月間の販売数量は、30万円÷600円=500個となる。
つまり3割アップすると、値上げ前の半分の数量を売れば、同額の利益を維持できるわけだ。これまで売上数量の目標値達成に追われていた営業の最前線の負担は軽減され、その分、商品・サービスの価値向上やロイヤルティーの高いお客様への手厚いフォローにリソースを割けるようになる。価格を3割アップしても売上数量が半分以上維持できれば、利益も増加する。
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「プライシング」と「単なる価格決定」の違い KKDの値付けから脱却 - 日経クロストレンド
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