【連載】価格戦略の必勝法
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東京ディズニーリゾート(TDR)を運営するオリエンタルランドの2024年3月期の業績は売上が、5,138億円(対前年比30%増)、営業利益が1,395億円(対前年比49%増)と売上高、営業利益ともに過去最高を記録した。これは、円安を追い風としたインバウンド顧客の増加や、新アトラクションの導入等が寄与したと考えられるが、筆者はこの好業績の大きな要因の1つがその価格戦略にあるのではないかと考える。この価格戦略に関し、近年TDRは2つの大きな意思決定を行っている。1つが値上げ、もう1つが価格差別化の深化である。本稿では、この2つの観点からTDRの価格戦略をひもといてみたい。
2011年以降9回、TDRの度重なる値上げ
これだけの値上げを行うと、通常は利用者数の相当程度の減少が起こるが、TDRの場合はまったく逆の現象が起こっている。価格が5,800円だった2011年3月期の入園者数が2537万人だったのに対して、9,233円となった2024年3月期は2751万人と200万人以上増加しているのだ。この要因としては、海外のディズニーランドの入園料との比較において、TDRのチケット価格が値上げ後も依然として割安であること(図2)や、施設の魅力を高めるためのさまざまな努力がなされたこともあるが、何よりも価格差別化の成功によるところが大きいのではないかと筆者は考える。
TDRのチケット価格は、ダイナミック・プライシングではない
価格差別化とは、顧客の属性の違いや、施設を利用する日、時間帯等に応じて異なる価格を適用することである。TDRの利用日に応じて料金を変化させるプライシング手法をダイナミック・プライシングと呼ぶ報道や記事もあるが、筆者はこれをそう呼ぶべきではないと考える。通常、ダイナミック・プライシングでは、飛行機のチケットやホテルのように、特定の利用日における価格は、予約するタイミングで異なる。たとえば、7月1日の朝8:00の便の飛行機のチケットの価格は、6月1日に購入する場合と6月31日に購入する場合では大きく異なる(通常、価格は直前に購入するほうが、1カ月前に購入するよりも圧倒的に高い)。TDRの場合は利用日によって価格は異なるが、チケットを購入するタイミングで価格を変えているわけではない。
チケット価格の細分化と“ディズニープレミアアクセス”
TDRは価格引き上げに加えて、大きく分けて2つの新たな価格差別化を行っている。1つ目が、利用日による価格差別化である。最初に利用日による価格差別化を導入したのは、2021年の10月で、予想されるチケット需要の大きさに応じて4段階の異なるチケット価格を設定し、2023年にはこれを6段階に細分化している。2つ目が、“ディズニープレミアアクセス”と呼ばれる、アトラクションを時間指定で予約できる有料サービスの導入である。“ディズニープレミアアクセス”では予約できるアトラクションによっても価格が差別化されており、アトラクション1回あたり1,500円、2,000円、2,500円と3つの異なる価格が設定されている。
こういった価格差別化を採用しているテーマパークはTDRだけではない。ユニバーサルスタジオはTDRよりも前に利用日に応じた変動価格制やエクスプレスパスと呼ばれるプレミアアクセスに相当するアトラクションの予約サービスを導入している。
図3は日本の主要なテーマパークが採用している価格差別化をまとめたものである。年齢による価格差別化はすべてのテーマパークで採用されており、入園時間とアトラクション優先利用による価格差別化は1つのテーマパークを除いて、実施されている。利用日による価格差別化を採用しているテーマパークは6施設中3つであるが、TDRの成功を受けて、これを取り入れるテーマパークは今後増えるのではないかと思われる。
では、なぜ、価格差別化は企業の売上・利益拡大に有効なのだろうか。
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