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Sunday, January 30, 2022

ダイソーの『100円絵本』に熱い支持、価格維持にこだわる出版社の熱意「ボロボロになってもいい、そのための100円」 - ORICON NEWS

 数々のヒット商品を生み出す100円ショップ「DAISO(以下ダイソー)」。近年は200円以上の商品も定着しているが、書籍は展開当初からほとんど100円を維持してきた。なかでも絵本は価格以上のクオリティから子育て世代に支持が高く、2021年にはマザーズセレクション大賞(主催:一般社団法人日本マザーズ協会)を受賞もした。ダイソーの書籍を手がける出版社・大創出版の西田大社長に『100円えほん』を実現可能にしている理由と、同価格にこだわり続ける思いを聞いた。

年間3千万冊以上も発行 「100円の気軽さが、子育て世代の心の余裕に」

「こどもしゃしんブック」シリーズ

「こどもしゃしんブック」シリーズ

 大創出版は、ダイソーで取り扱う書籍を専門に手がける出版社だ。書店やコンビニといった一般的な書籍の流通ルートとは異なるため、いわゆるベストセラーランキングには登場しないものの、隠れたヒット本を数多く生み出しており、現在では年間3,000万冊以上を発行している。

 特に幼児・児童向け書籍の充実には目を見張るものがあり、絵本をはじめ、学習ドリルに、シールブック、さらにはオリジナルのボードゲームなど幅広いラインナップを生み出し続けている。

 「ダイソーのお客さまは主婦層が多いことから、お子さま向け書籍の需要がとても高かった。それで自然と企画も増えていったという流れです」(大創出版・西田大社長/以下同)

 2021年には幼児向けの絵本が『DAISOえほん』として、一般の母親たちの投票で「子育てに役立ったもの」を選出するマザーズセレクション大賞を受賞。支持の理由としては「価格以上のクオリティ」もさることながら、「100円絵本によってゆとりが生まれた」という声も多かったという。

 「お子さまが絵本を噛んだり、落書きをするのは成長の過程で自然なことですが、値段の高い絵本や図書館で借りた絵本だと『丁寧に扱わなければ』という意識から、お子さまを伸び伸びさせてあげられないジレンマがあった。『100円本なら』という気軽さが、子育てする上での心の余裕につながったというコメントはとてもうれしかったですね」

『100円絵本』実現のカギはダイソーの“販売力”、コスト抑えるための苦悩も

 もちろん赤ちゃんが口にいれても大丈夫な安全性から本の内容まで、一般の児童書に引けを取らない品質も追求し続けている。

 「ラインナップの充実と同時に、中身もだいたい3年周期でリニューアルしています。例えば『こどもしゃしんブック・のりもの』には、最新版から新幹線のはやぶさなどを新たに掲載しています。またイラストも時代とともに好みが変化します。児童書には普遍的な側面もありますが、一方で『現代の子育て世代がお子さまに何を与えたいか』ということは、常に意識していきたいですね」

 一般的に絵本は書籍の中でも高額になりやすいジャンルだ。それは赤ちゃんがめくりやすいようにボード紙が使われていたり、安全のため角を丸くしていたり、水に濡れても破れにくいように加工をしていたりと製造コストがかかるためでもある。

 それを販売価格100円に抑えるには、苦労も大きいという。「弊社だけでなく印刷会社さんや用紙業者、制作や編集に携わってくれる方々の協力があって実現できています。ただ『あかちゃんえほん』に関しては特殊な製造になるので、コスト面から海外の印刷会社さんに発注しています」
 
 当然、印刷会社としても利益が出なければ受注はできない。そこを交渉可能としているのが全国に約3,600もの店舗を展開する、ダイソーの圧倒的な販売力だ。「一般の書店さんに置く本よりも売れます、増刷もたくさんします、ということで印刷会社さんにご了承いただいているところは大いにあります」

 企画や編集はほとんど社内で行っており、イラストレーターなどの外部クリエイターはスカウトで発掘している。「正直、大手出版社さんほどの謝礼はお支払いできないですし、お断りされることもあります。一方で『100円でお子さまに本を届ける』ことに共感してくださる方もたくさんいます。『ざんねんないきもの事典(高橋書店)』でお馴染みの今泉忠明先生もその1人で、弊社の生き物関連の児童書やゲームなどの監修を快諾してくださいました」

 懐に飛び込み、次々と人脈を広げる西田社長の人間力もまた、クオリティの高い100円本を実現させている秘訣のようだ。

“二極化”する絵本の意義、100円にこだわる真意「200円では、心のゆとりもなくなってしまう」

 自分の出費を抑えてでも、子どもには良いものを与えたい──。そうした親の思いから児童書は出版業界の中でも好調で、高額であっても売れやすいジャンルとされている。それでも西田社長は「なんとか100円にこだわっていきたい」ときっぱり言う。

 「絵本には贈り物需要もありますし、立派な体裁の高額な絵本はこれからも存在し続けてほしいと思っています。一方でもっと生活に身近な絵本があってもいいと思うんですね。赤ちゃんにとっては絵本だっておもちゃなんですから、どんなにボロボロにしたっていい。でもそのためには、やっぱり100円でなければいけないんです。200円という倍の値段になったら、その分だけ親御さんの心のゆとりもなくなってしまう。要は絵本も二極化していると言いますか、お客さまの選択肢が広がるのはいいことだと思うんです」

 本の目的買いでダイソーに来店する客は、当たり前だが書店と比べて多くはない。それでも生活雑貨とともに並べられている気軽さ、そして100円という手頃な価格は、活字離れが叫ばれる昨今においてダイソーで本を売ることの意義を感じさせる。

 「昨今は、生活雑貨と同様に100円本に求められるハードルもどんどん上がっています。弊社もさらにお客さまの想像を超える感動品質を追求しなければと、気持ちが引き締まりますね」
 
4月には名作絵本の新シリーズが登場予定。絵本では初の試みとして日本語/英語のバイリンガルによる物語の表記や、読み聞かせ用の音声ダウンロードが付くという。もちろんこちらも100円だ。ますます進化していく『100円絵本』の展開に今後も期待したい。

(取材・文/児玉澄子)

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