東京一極集中を続けてきた日本の潮流の変化。
土地の価格=地価の最新データを詳しく見ると、札幌・仙台・広島・福岡の「地方4市」では、東京などの3大都市圏をも上回って地価が上昇していることが分かります。
なぜ、コロナ禍でも“強い”のか。
そして、その陰で周辺自治体が衰退しないようにするには何が必要かを探ってみました。
(記事の最後に全都道府県の地価変動率一覧を掲載しています)
“札仙広福”の地価上昇率「3大都市圏」を上回る
地域の活力を測るバロメーターの1つとされる「地価」。
国土交通省は地価公示法に基づき、全国およそ2万6000地点を対象に毎年1月1日時点の価格を調べ、公表しています。
今年の「地価公示」(3月22日公表)では、住宅地と商業地などを合わせた全体の平均が去年に比べてプラス0.6%となり、2年ぶりに上昇に転じました。
全国や3大都市圏の地価のグラフからは、新型コロナの影響が徐々に緩和される中で、地価が回復傾向にあることが見て取れます。
一方で、コロナ禍でも地価が力強く上昇しているのが、札幌・仙台・広島・福岡の「地方4市」です。
去年もプラスだったこの“札仙広福”(さっせんひろふく)の地価は、今回、全体の平均がプラス5.8%。
上昇幅を一段と拡大させました。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの藤田隼平副主任研究員は、今後、地方間で人口の格差が広がる可能性があると指摘します。
「人口減少の影響で地方の衰退が課題となる中、特に若い人を中心に大学や雇用環境などが充実している地方の中心都市に移り住む流れが強まっていると考えられる。この流れは人口減少が進む中で続くとみられ、地方間の格差は広がっていく可能性がある。今は若い人を呼び込んでいる中心都市であっても人口減少が進めば周辺から呼び込むことも難しくなるおそれがある。
数十年先の地域の姿を見据えて、今、どんな手を打つべきか、産官学が手をたずさえ打開策を模索していく必要がある」
具体的な都市を見てみます。
福岡県は商業地の上昇率が2年連続で全国1位となりました。今年の上昇率は4.1%と、去年の2.4%を大きく上回りました。コロナ禍の中でも地価の上昇が続いています。
中でも福岡市の商業地はプラス9.4%。
私たちはその“強さ”の理由を探ろうと、福岡市に飛びました。
「天神ビッグバン」カギは規制緩和
市役所や商業施設が集まる九州最大の繁華街・福岡市の天神地区。2015年に市が掲げた再開発プロジェクト「天神ビッグバン」でビルの建て替えが進められています。
天神ビッグバンは、天神地区中心部の半径500メートルの範囲で、老朽化したビルの建て替えを目指しているビッグプロジェクトで、年間8500億円の経済波及効果を目標にスタートしました。
このプロジェクトのポイントは規制緩和です。
天神地区は福岡空港に地下鉄で10分程度の近さで利便性がある一方、航空法による建物の高さ制限が課題となっていました。
それを克服するため、国家戦略特区の活用で一部のエリアの高さ制限をおよそ75メートルから、最大で1.5倍の115メートルに緩和しました。さらに市独自に建物の容積率の規制も緩和して企業が収益性をあげやすいような施策を次々と打ち出しました。
補助金を使わずに規制緩和で民間投資を呼び込む。70棟のビルの建て替えが見込まれるとしています。
県外からも企業が進出
去年9月には第1号のオフィスビルとなる「天神ビジネスセンター」が完成しました。地上19階、高さおよそ89メートルです。
ここには市内にあった企業だけでなく、県外からも新たに進出した企業もあります。
「ジャパネットたかた」で知られる通販大手の「ジャパネットホールディングス」は東京の本社機能の一部を移転させました。
コロナ禍で多様な働き方が問われる中で、東京にはない魅力を福岡に感じているといいます。
(ジャパネットホールディングス 高田旭人社長)
「仕事もしながらちょっと自然があるところにも行きたいって思ったときに、福岡市は本当に絶妙なバランスがとれた街です。福岡にオフィスを構えると伝えたときにも社員はすごく好意的で行きたいという人も想像以上に多かった」
天神ビッグバンの計画発表後にコロナの感染が広がり、オフィスの大量供給に需要があるのか見通しがつきにくい時代になっています。
こうした時代の自治体運営は、民間といかに連携を深め、柔軟なまちづくりを進められるかがますます重要な要素になっているのではないでしょうか。
札幌近郊でも強気 マンション価格1億5000万円も
今回の地価公示で、商業地、住宅地とも上昇率が全国で最も高かった地点でも、その理由が見えてきました。
北海道の北広島市です。
札幌から電車でおよそ20分のベッドタウンで、明治時代に広島県出身の人たちが移り住んだのが名前の由来です。
新球場の建設に伴って、実際の不動産投資も始まっています。
新球場のわずか80メートル隣に建設中の分譲マンションの価格は最高およそ1億5000万円。札幌近郊のマンションとしては強気の価格です。
にもかかわらず、建設している不動産会社によりますと、今年2月、118戸のうち、およそ6割を発売したところ即日完売。購入したのは50代が中心で、自宅として住む目的に加えて「セカンドハウス」としての需要も多かったということです。
「札幌では手が届かないが…」移住した人は
マチが変わるのをきっかけに、さっそく市内に移住した人も出てきています。
池田和也さん(37)は、職場のある札幌市で賃貸マンションに住んでいましたが、子どもの誕生で家が手狭に感じられ、札幌市へのアクセスと新球場建設を決め手に移住しました。
札幌市では住宅価格が高騰し、手が届きませんでしたが、北広島市の住宅価格は手ごろだったと言います。
池田さんが購入したのは敷地の広さが100平方メートルほどの中古住宅で、価格はリフォーム代とあわせてもおよそ2000万円でした。
(池田和也さん)
「住宅の価格や札幌市へのアクセスの面では、札幌市に隣接するほかの自治体でも遜色はなかったが、新球場が建設されるというところに魅力を感じた。もともと野球が好きなこともあるが、それ以上に今後、新球場を中心として北広島市が発展していく期待感を持つことができた」
行政主導の地域づくり “好循環”で人口回復を
こうした地域づくりは、北広島市が主導しました。
市は、JR北広島駅西口の市有地で再整備を始めています。新球場から徒歩で20分ほど離れた中心部の活性化も図ろうという狙いです。
民間の不動産会社は2024年のオープンを目指し14階建ての複合ビルを建設します。地元産の食品をそろえた店舗やフードコートのほか、上層階にはホテルも入ります。あわせて新球場行きのバスに乗り降りする広場も整備します。
「新球場や関連ビジネスで雇用が生まれ、地域に人が増え、それを見込んだ民間企業が投資してさらに利便性が向上する」
北広島市はこうした好循環を作り出すことで、8年後の2030年の人口を今よりおよそ4%多い、6万人に回復させたい考えです。
半導体工場誘致 地価が上がった町
地方の町でも地価が上昇した所があります。
熊本県菊陽町は、市街地や商業施設の周辺に農地が広がる、人口4万3000人余りの町です。
ここに半導体の受託生産の世界最大手で、技術力も世界トップといわれる、台湾の半導体メーカー「TSMC」の工場が進出することになったのです。
TSMCは、ソニーグループと、自動車部品メーカーのデンソーと共同で、今年春に着工し、2024年末の生産開始を目指しています。
工場の面積は21万平方メートルと、東京ドーム4.5個分あり、雇用規模は1700人と発表されています。
関連企業の進出や人口増加への期待感から、地価が上昇したのです。
不動産業者は特命チームで勝負
この熱気を肌で感じているのが、地元の不動産業者です。
熊本県が拠点の「コスギ不動産」は今年1月、新たに4人の特命チームを立ち上げました。
不動産需要の高まりを見込んで、新たにマンションや工場を建てる土地や、物件を探しています。
事業用地の問い合わせは、去年同期比で4~5倍に増加。台湾の投資家からも問い合わせがあるということです。
(コスギ不動産 担当役員 小杉竜三さん)
「人口は間違いなく増加するので、大きなビジネスチャンスです。今から土地を仕入れて新築しても、1年半から2年はかかります。TSMCの生産開始まであと2年もないので、土地取得はこの3、4か月が勝負。全速力で駆け上がっている状況です」
行政の戦略が誘致の布石に
TSMCの進出先として選ばれた背景には、町や県の企業誘致の戦略があります。
空港や高速道路のインターチェンジまで車で10分という交通アクセスのよさに加え、さらなる強みが「半導体産業の集積」です。
菊陽町と隣の合志市にまたがって整備されたのが「セミコンテクノパーク」などの工業団地です。半導体関連を中心とした企業25社が進出しています。
町はさらなる企業進出を見据えて、この団地の隣りにある農地などを工業用地にする事業に、2018年から着手していました。
今回のTSMC進出で、まいた種が実を結んだ形です。
持続可能性どう高めるか
最新の地価データから見えてきた札仙広福の活況。
コロナ禍で、長年の東京一極集中には変化の兆しが出ていますが、今後、各地方では「札仙広福一極集中」が加速する可能性も指摘されています。
人口減少が進む中、自治体どうしが“限られたパイ”を奪い合うような状況を避け、地方の持続可能性をどのように高めていくのか。
国にも、将来への明確なビジョンと、これを実現するための具体策が求められるのではないでしょうか。
全都道府県の地価変動率
それぞれの都道府県での住宅地の地価変動率を示したグラフは以下のとおりです。
今年の「地価公示」では、住宅地の地価の全国平均が去年より0.5%上昇し、2年ぶりに値上がりしました。
住宅地の地価が上昇したのは20の都道府県で、上昇率が大きかった順に見ていきます。
最も大きかったのは、▼北海道でプラス4.6%でした。
札幌市で住宅需要の伸びが続いていて、周辺の自治体にもそれが波及した形です。
次いで、▼福岡がプラス3.2%、▼宮城がプラス2.8%、▼沖縄がプラス2%、▼東京、愛知、大分がプラス1%、▼佐賀、熊本がプラス0.9%、▼千葉がプラス0.7%、▼石川がプラス0.6%、▼埼玉がプラス0.5%、▼福島がプラス0.3%、▼神奈川、広島、山口がプラス0.2%、▼山形、京都、大阪、長崎がプラス0.1%となっています。
住宅地の地価が上昇した都道府県は去年の8か所から2倍以上になり国土交通省は「新型コロナの影響が徐々に緩和され、景況感が改善している。低金利が続いていることなどもあって、住宅需要が回復している」としています。
一方、このほかの27の県では、住宅地の地価が去年より下落しました。
下落率が小さかった順に見ていきます。
▽岩手、兵庫がマイナス0.1%、▽富山、長野、宮崎がマイナス0.2%、▽岡山がマイナス0.3%、▽茨城がマイナス0.4%、▽青森、鳥取、島根がマイナス0.5%、▽徳島、高知がマイナス0.6%、▽秋田、栃木、山梨、三重、奈良、香川がマイナス0.7%、▽新潟、静岡がマイナス0.8%、▽群馬、福井、岐阜、滋賀がマイナス0.9%、▽鹿児島がマイナス1%、▽愛媛がマイナス1.1%、下落率が最も大きかったのは▽和歌山でマイナス1.3%でした。
それぞれの都道府県での商業地の地価変動率を示したグラフは以下のとおりです。
今年の「地価公示」では、商業地の地価の全国平均が去年より0.4%上昇し、2年ぶりに値上がりしました。
商業地の地価が上昇したのは15の都道府県で、上昇率が大きかった順に見ていきます。
最も大きかったのは、▼福岡でプラス4.1%でした。
専門家は、地域の拠点としての利便性が高まっているほか、再開発も進められていることが影響していると指摘しています。
次いで、▼北海道がプラス2.5%、▼宮城がプラス2.2%、▼愛知がプラス1.7%、▼千葉がプラス1.2%、▼神奈川がプラス1%、▼広島と熊本がプラス0.8%、▼沖縄がプラス0.7%、▼東京がプラス0.6%、▼京都がプラス0.5%、▼長崎がプラス0.4%、▼佐賀がプラス0.3%、▼埼玉と岡山がプラス0.2%となっています。
商業地の地価が上昇した都道府県の数は去年のおよそ2倍に上り、国土交通省は「新型コロナの影響が徐々に緩和される中で回復傾向が見られる」としています。
また、去年から横ばいだったのが、◆福島、◆滋賀、◆兵庫の3つの県です。
一方、このほかの29府県では、商業地の地価が去年より下落しました。
下落率が小さかった順に見ていきます。
▽大阪、大分がマイナス0.2%▽茨城、山口がマイナス0.3%、▽山形がマイナス0.5%、▽栃木、山梨がマイナス0.6%、▽富山がマイナス0.7%、▽石川、静岡、三重、奈良、香川、宮崎がマイナス0.8%、▽青森、秋田、福井、長野、岐阜がマイナス0.9%、▽岩手、徳島、愛媛、高知がマイナス1%、▽群馬がマイナス1.1%、▽新潟、和歌山、島根がマイナス1.2%、▽鹿児島がマイナス1.3%、下落率がもっとも大きかったのは▽鳥取でマイナス1.7%でした。
“札仙広福”土地価格が上昇 東京大阪上回る理由は|地方潮流 - nhk.or.jp
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