[ムンバイ/ロンドン 15日 BREAKINGVIEWS] - ロシア産石油の取引価格に上限を設ける主要7カ国(G7)の計画は、アジアの大国である中国とインドにとって恩恵より害の方が大きそうだ。両国がG7の措置に加わる場合もそうでない場合も、これは当てはまる。
取引価格に上限を設けてロシアへの資金流入を制限するこの措置に、中国とインドは抵抗するだろう。西側諸国と異なり、両国はロシアのウクライナ侵攻を非難していない。それどころか、この機に乗じて安くなったロシア産ウラル原油の購入を増やしている。北海ブレント油が現在1バレル94ドル前後で推移しているのに対し、ウラル原油はこれより20%ほど安い。ロシアのプーチン大統領は15日に中国の習近平国家主席と、16日にはインドのモディ首相と会談するなど、3カ国の絆は固い。
確かに短期的には、中国とインドが恩恵を受ける方法はある。米財務省高官らは、価格上限に参加しない国でも、この措置をてこにロシアとより大幅な値下げ交渉を行えると主張している。プーチン氏がG7諸国への供給を制限するという対抗措置を採り、その結果、G7に代わる市場を必要とする場合には、特にそうした状況になりやすいかもしれない。
しかし、米国が描く「ロシア以外全員が勝ち組」というシナリオは単純に過ぎる。上限を超える価格でロシア産石油を買う主体は全て、物流網の重要な部分で西側の締め付けに甘んじざるを得ない。
ロシア産原油を運ぶ船舶の約60%は、ギリシャその他の欧州連合(EU)の船籍であり、そこに保険を提供するのは大半がノルウェーか英国の保険会社であることが、エネルギー・大気清浄調査センターの調べで分かっている。価格上限を守ることが、G7諸国および、その措置に加わる他の国々のサービスを受ける条件になる。プーチン氏が天然ガス同様に石油の供給も減らすなら、国際石油価格は結局上がり、短期的には全ての国が恩恵を得られない恐れもある。
一方、長期的なコストもある。価格上限を設けると市場が信頼に足るシグナルを発しなくなり、産油国は将来の供給に向けた設備投資の判断が難しくなる。2000年代には石油価格が上昇したため、米国でシェールオイル開発ブームが起こった。
現在、こうしたシグナルが大きな意味を持つのはアジア諸国だ。石油輸出国機構(OPEC)によると、米欧の石油需要は2045年までに日量600万バレル減少する見通し。これに対してインドと中国の需要は日量1030万バレル増え、世界全体の需要拡大の60%近くに寄与する可能性がある。
再生可能エネルギーへの移行が加速し、石油採掘のための投資の魅力があせるにつれ、長期的な供給関係の重要性は増していくだろう。アジアにとって、価格上限は長期的に道理にかなっておらず、短期的にも大した利点は無いかもしれない。
●背景となるニュース
*ベン・ハリス米財務次官補は9日、記者団に対し、G7諸国によるロシア産石油の価格上限計画は、インドが石油購入価格をさらに引き下げるのに役立つと指摘。「各国は価格上限に正式参加しない道もある、新たに生まれた『てこ』を使ってロシア産石油の購入交渉を有利に進めることができる。ロシアが30%かそれ以上のディスカウント価格での長期契約を求めているという報道を既に目にした。これはロシアが価格上限を恐れているからだ」と述べた。ハリス氏は、この制度により「ロシアを除く実質的に全員が勝つ」との見通しを示した。
*11日付のインド紙ビジネス・スタンダードは「確立している国際価格メカニズムに人為的な変更を加えると、後々思わぬ影響が出るかも知れない。インドは引き続き、複数の選択肢を検討していく」とする政府高官の発言を報じた。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
コラム:ロシア産石油の価格上限、中印には恩恵より害 - ロイター (Reuters Japan)
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