中小企業の価格転嫁が進んでいない。価格転嫁がうまくいかずに、結果的に経営破綻を余儀なくされた「値上げ難型」の倒産が増えている。ものづくり産業労働組合(JAM)がまとめた調査では、価格転嫁の成否が、企業の競争力に影響しているとの結果を得た。賃上げの原資となる価格転嫁の行方は、継続的な賃上げを占う試金石となりそうだ。(幕井梅芳)
帝国データバンクによると、原材料や燃料などの「仕入れ価格上昇」により収益が維持できずに倒産した2023年の「物価高倒産」は、7月までに累計442件発生した。このうち、価格転嫁を取引先から拒絶されたり、わずかな値上げしか認めてもらえなかったりして、結果的に経営破綻した倒産は23件で、「物価高倒産」全体の約5%を占めた。前年同期12件のほぼ倍増ペースで推移している。
JAMは8日都内で「価格転嫁 まったなし」と題した集会を開き、JAMの安河内賢弘会長が「結成以来、価格転嫁に取り組んでいるものの、道半ばだ」と訴えた。JAMがまとめた調査では、価格転嫁が「できた」とする企業のうち、業績が「良い」割合は31・1%を占めた。一方、価格転嫁が「できなかった」企業では19・8%にとどまり、労務費の価格転嫁と企業業績に関連性が見られた。業績の悪い企業で、価格転嫁ができなかった企業は全体の約15%で、特に厳しい経営状況だ。価格転嫁の成否が、企業経営に大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。
特に労務費については、価格転嫁「できなかった」「協議しなかった」を合わせると全体の4割を占める。「ほとんど転嫁できた」は9%にとどまった。労務費の価格転嫁が「困難」な実態が浮かび上がった。
ある大手鉄道の労働組合の組合員は「『値上げに応じるが、実質的な値下げ要請に応じてほしい』と言われる」と吐露する。価格転嫁の交渉が意味をなさない状況もある。また、自動車部品関連の労働組合の組合員は価格転嫁が進まない理由について、「業界では、交渉時に会社から根拠の資料を求められる。根拠となる数値化データの分析に時間がかかる。中小が多く、対応できていない」と話す。
政府は公正取引委員会などを中心に、労務費の転嫁状況を業界ごとに実態調査し、これを踏まえて、労務費の転嫁のあり方の指針をまとめる方針だ。ただ、労務費の価格転嫁は根拠が示しにくく、交渉が進まないというのが現状だ。労務費の業界ごとのデータを政府や産業別労働組合が協力し、典型例を示すなどきめ細かな対応が求められる。
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