新型コロナウイルス禍の際に打撃を受けた国内観光地で飲食などの価格が高騰している。円安を背景にコロナ禍前の水準に回復してきたインバウンド(訪日外国人客)向けに高額な商品・サービスを提供する施設などが増加。一方、物価高の影響を受ける国内客は「手が出ない」のが実情だ。専門家は価格を平準化するため、集客や休暇時期を工夫すべきだとしている。
円安も追い風「桁違いの消費、官も民も期待」
生ガキ5個4千円、ウニは2千円超…。「なにわの台所」として知られる黒門市場(大阪市中央区)に軒を連ねる鮮魚店の店先では、食べ歩きを楽しむ外国人がカキなどを購入し頰張っていた。
「日本人はぼったくりと感じるかもしれないが、外国人は自国よりも安いと喜んで買ってくれる」。カキを販売する鮮魚店の女性は苦笑しながら話した。一度に3万~4万円を消費する訪日客グループもいるという。
カニ専門店では、カニ足4本セットが1万2千円。「多くの日本人には手が出ない」と地元女性は漏らす。このカニは輸入品だといい、店主は「カニは海外でも人気で、仕入れ値が上がっている。他国の経済が発展し円安でもあり、必ずしも良い商品が安く日本に入ってくるわけではない」と強調した。
2月にオープンした東京都江東区豊洲の観光施設「豊洲 千客万来」。交流サイト(SNS)を中心に7千円近い海鮮丼に注目が集まり、インバウンドと掛け合わせた造語「インバウン丼」がクローズアップされた。
ただ、施設では2千円程度の海鮮丼を提供する飲食店もあり、価格帯は店舗によって幅がある。
施設を運営する万葉俱楽部の担当者によると、できるだけ良い素材を使って良い商品を提供するのが店側の考えで、不当に高額な価格設定にはしていないとしている。
インバウンドを想定した価格は、飲食に限らない。
スキーや乗馬などを楽しめる北海道西部のニセコ町では、1泊10万円超の高価格ホテルを新設する動きが広がっている。これに呼応するように、町は1泊当たりの宿泊料が10万円以上の客から2千円の宿泊税を徴収する方針を決定。11月からの導入を目指して手続きを進めている。
宿泊税は、従来の定率制を段階定額制に変更する。例えば1泊当たりの宿泊料が「5001円以上2万円未満」なら税額は200円。「2万円以上5万円未満」は500円、「5万円以上10万円未満」は千円になる。
地元関係者によると、10万円超の宿泊施設では欧米や中国系の富裕層が目立つ。ある観光業者は「インバウンドは使うお金の桁が違う。官も民も期待を寄せるのは仕方がない」とつぶやいた。
東京商工リサーチの調査によると、株式上場するホテル運営会社13社の客室単価と稼働率は都心を中心にコロナ禍前とほぼ同水準まで回復した。
調査では稼働率が上昇する一方、人件費やエネルギー価格が上がり客室単価は上がり続けていると指摘。訪日客数の拡大により、この傾向は今後も続くと分析している。
訪日客消費額は過去最高、富裕層取り込みが鍵
政府は観光を成長戦略の柱とし、コロナ禍を経た復活に向けて「消費額の拡大」を重視する。観光庁の統計によると、令和5年のインバウンド旅行消費額(速報値)は過去最高の5兆2923億円に上り、政府が掲げる目標額の5兆円を突破。コロナ禍前の元年(4兆8135億円)と比べ約1割増えた。
要因の一つとして宿泊数の増加が挙げられる。5年のインバウンドの平均宿泊数は10・2泊で、元年比1・3泊増。渡航制限の反動で滞在期間が延び、宿泊費や飲食費などが増えたとみられる。
統計によると、インバウンド1人当たりの支出額は約21万2千円(元年比33・8%増)と、こちらも政府目標額の20万円を上回った。項目別では宿泊が約7万3千円と最も高く、次いで買い物が約5万6千円、飲食が約4万8千円だった。宿泊と飲食は欧米やオーストラリアで高く、買い物は中国が約11万9千円と突出して高かった。
政府は昨年3月に閣議決定した観光立国推進基本計画で、海外富裕層がもたらす経済効果は「極めて高い」と言及。インバウンド回復に向けて富裕層に働きかけ、消費額増加への取り組みを強化するとしており、「観光産業の付加価値をさらに高め、『稼げる』産業に変える必要がある」としている。
「知られざる観光地の周知を」日本大の宍戸学教授
海外のようにインバウンドと国内観光客を峻別(しゅんべつ)した価格設定は、今の日本では不公平感を招き、難しいだろう。ただ明確に区別しないまでもインバウンドを想定した高価格により、人手不足にあえぐホテルや観光施設では従業員の給与が上がったり、雇用が生まれたりする効果がある。
高い価格設定には、海外でも知名度が高いエリアにインバウンドが集中している事情も影響している。近隣で旅行などを楽しむ「マイクロツーリズム」のように政府や自治体、観光業界が連携し、ポテンシャルがありながら広く知られていない観光地の魅力を高め、周知する努力が必要だ。
少子化で国内需要が縮小する中、地域経済にとってインバウンド需要の取り込みは避けて通れず、受け入れ側の対応力が求められている。
一方、国内観光客が長期休暇を取得する時期はゴールデンウイークや年末年始に集中しがちで、これも改善の余地がある。企業や学校で時期をずらせる制度が普及すれば、大型連休中に高騰する宿泊料金が平準化され、観光業者にとっても経営の安定につながる。
生ガキ5個4千円、1泊10万円超…高額な「インバウンド価格」続々 消費額はコロナ前超え - 産経ニュース
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