4月21日に総務省が発表した2022年度の平均物価上昇率は3・0%。第2次石油危機の影響を受けた1981年度以来、41年ぶりという歴史的な水準の上げ幅となっている。食品価格の高騰も続く中、スーパーやコンビニの棚を見渡すと「濃厚」「しっかり」といった“濃い味”を謳う商品がズラリと並んでいることに気づく。
不景気のときは濃い味の商品が売れる?
飲料、お菓子、カップラーメンなど幅広いジャンルで“濃さ”を訴求する商品が市場をにぎわせているようだ。たしかに、食品業界には「不景気のときには、濃い味の商品が売れる」というジンクスがあるといわれているが……。
「私はアイスクリームをはじめとして、食品や飲料のトレンドを追い続けていますが、この数年を見ても“濃い味”のニーズはさまざまな分野で着実に高まっていると感じます。特に飲料市場ではその傾向が顕著に表れていて、濃い味わいの緑茶商品などは近年大きく伸長しています」
そう教えてくれたのは、イートデザイナーのシズリーナ荒井さん。実際に緑茶飲料市場では“カテキンリッチ”な商品が人気を博している。例を挙げると『お~いお茶 濃い茶』(伊藤園)は、今年1月末の時点で販売数量41か月連続伸長を記録。さらに『伊右衛門 濃い味』(サントリー)や『綾鷹 濃い緑茶』(コカ・コーラ)といった商品も売り上げを大きく伸ばしており、その影響は近年の抹茶ブームとも連動しているようだ。
「2021年には、都内をはじめとして抹茶専門店が続々とオープンしています。お茶本来の苦みや深い味わいを楽しむ“抹茶リテラシー”が向上したことも、昨今の“濃いお茶トレンド”に拍車をかけているのかもしれません」(シズリーナ荒井さん、以下同)
“濃いお茶トレンド”はそのほかの“濃い味”食品との相乗効果も高い。
機能面でも注目される濃い系
「濃い系の緑茶飲料は“内臓脂肪を減らす”といった機能性表示食品となっているものも増えていて、機能面でも注目されています。味の濃いラーメンや、脂っこい食事の罪悪感を打ち消す“免罪符”という意味合いで手に取る人も多く、食品の濃い味トレンドと呼応するかたちでこの先も伸び続けると思います」
食品分野においても、濃さを謳う商品が続々と発売されている。例えば、『明治北海道十勝スライスチーズ』(明治)の商品ラインナップには、3月1日から〈濃い味〉が新登場。同社によると、「通常のスライスチーズでは物足りなく感じることがある」といった消費者の声を商品開発に生かしたという。また、ニコニコのりは『濃い味極卓上10切50枚』という新商品を3月1日に発売。味付け調味液を従来の1・5倍塗布した濃い味わいで、ご飯のおともにはもちろん、そのままおやつやおつまみとしても楽しめる。
「そもそも“濃い”というのは、ものすごくわかりやすい付加価値です。消費者のあいだにも“濃い=おいしい”という絶対正義のような価値観がどこかに根づいていることは、マーケティングの手法のひとつであるA/Bテストなどでも見えてきます。シンプルでわかりやすく、訴求力のある“濃さ”を謳う商品を売り出すのは、値上げラッシュの最中においてある意味では王道の戦略ともいえます」
どうせ買うならとことん濃いものを!
お菓子やスイーツのジャンルでも濃厚路線は継続中だ。ウエルシア薬局株式会社は4月9日からプライベートブランド商品として『ちょこっと食べたらまた食べたくなるハイカカオチョコ』を発売。カカオ72%の商品で、健康増進効果や美容効果に期待が寄せられている。一方、湖池屋は昨年10月に関東エリア先行で発売していた『濃いじゃが アンチョビオリーブ』を、4月3日から全国発売に。カリカリポテトに濃厚ソースが染み渡る“高密度ポテトチップス”は、先行販売でも好調な実績を残した。
さらには、インスタントラーメンの分野でも3月20日に『日清麺職人 濃いだし 煮干し醤油』(日清食品)が発売されるなど、「特濃」「濃いだし」「超こってり」といった文言はもはや即席麺業界では定番となっている。
「ハイカカオのような機能性重視のヘルシー路線が定着している一方で、外食分野でもガツンと濃厚な味わいの商品は多く、食のセレクトが完全に二極化しているように思えます。多少塩分が高いものやハイカロリーなものを“罪な味”として、背徳感をどこか楽しむようなカルチャーも若い人のあいだで生まれていますね。SNSなどでは健康的な食事よりはちょっとヤンチャな食べ物のほうがバズりやすいというのも理由のひとつ。“ヘルシー疲れ”を感じていたり、ストレス解消として濃いものをガッツリいきたいという潜在ニーズも、もちろんあると思います」
嗜好の二極化はアルコール市場にも表れている。いわゆるストロング系といった高アルコール商品は根強い人気を誇り、市場に定着したといえる。さらには、『ビストロ ストロング ペットボトル 濃いめ赤/濃いめ白』(メルシャン)が3月28日に発売されるなど、風味や味の濃厚さを売り出した商品も続々と登場。
一方で、アルコール3%の『ほろよい』ブランド(サントリー)や、アルコール2~6%の『バー・ポームム』ブランド(サントリー)といった低アルコールRTD(Ready To Drink、プルタブを開けてすぐ飲める缶アルコール飲料)も堅調だ。
アイスクリームにもアルコール
「実はアイスクリームの分野でも、アルコール5%の『クーリッシュ フローズンサワー』(ロッテ)など、アルコール度数が高めの商品が生まれています。2019年に酒税法が改正され、アルコール含有量1%以上の商品を出すことができるようになったことがきっかけです。ただし、一概に高アルコールだから伸びているというわけではなく、ノンアルコールや微アルコールを含め、幅広く多様な商品が出そろったというのが、リアルな現状かなと思います」
低コストで手軽に飲めるRTDが成長する一方で、自分の好みの濃さを実現できる希釈タイプの商品も人気だ。サントリーが3月7日に発売した『こだわり酒場のタコハイの素』は、アルコール度数25%で500ml、715円(税込み・編集部調べ)。手っ取り早く酔いたい派にとっては濃いめのレシピで贅沢な一杯を満喫できる一方、アルコールが得意ではない人は好みの割り材を使って薄めの“タコハイ”をコスパよく楽しめる。
「実は濃縮タイプの商品というのは、輸送効率や売り場のスペースといった面でもコスパがいいといえます。昨今は食後に晩酌タイムをゆっくり楽しむというよりは、食中酒として料理に合わせながらお酒を楽しむという飲み方が人気なので、タイパ意識という意味でもこういった商品が人気を集めるのも納得です」
メディアを遡ってみると2012年などにも“濃い味ブーム”が大きく取り上げられており、このトレンドはこの10年ほど断続的に繰り返されている。25年以上にわたり経済停滞を続けている日本において、冒頭の問いである「不景気のときには、濃い味の商品が売れる」というのは、やはり真実なのかもしれない。
「不景気で濃いものが求められるのは、やはり“わかりやすい贅沢感”というのが大きいと思います。手に届く範囲でのご褒美として、暮らしの中で少しでもいいものを選びたいという心の動きは、当然なのかもしれませんね」
値上げラッシュも収まりそうにない中、消費者が潜在的に“濃い味”を求めてしまうのは、必然なのかも。
シズリーナ荒井 アイス研究家、イートデザイナー。アイス食歴38年、年間4000個以上ものアイスを食べ歩く、日本最強のアイスマニア。YouTubeチャンネル『シズリーナ荒井 / シズチャンネル』も好評
<取材・文/吉信 武>
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食品価格が高騰すると「濃い味」が売れる!“濃い=おいしい”という価値観とわかりやすい贅沢感 - au Webポータル
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